#003-CHVRCHES

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CHVRCHES

Instagram:@chvrches

チャーチズ。2011年結成。グラスゴー出身のローレン・メイベリー、マーティン・ドハーティ、イアン・クックによるエレクトロ・ポップ・バンド。80年代を彷彿とさせるノスタルジックなテクノサウンドに、ローレンのキュートで切なくエモい歌声が絡む。日本でも多くのファンを持ち、2018年のフジロックではホワイトステージの大トリを務めた。

 

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ーコロナ渦での制作はCHVRCHESの作品にどういった影響を与えましたか?

アルバムの強度みたいな部分に影響が出ているんじゃないかと思う。元々3作目よりは少しダークなテーマを扱うつもりだったけど、隔離されたことによって一層そうなったというか。Ianはスコットランド、Martinと私はロサンゼルスで、変な時間帯にZoom越しに曲作りをしたりしていて、こういう作り方をしてなかったら出せなかったであろう雰囲気が出てる気がするの。

ー最新アルバムのタイトル『Screen Violence』。ここにはどういった意味が込められていますか?

『Screen Violence』は、元々バンド名の候補として挙がっていたけど結局使わなかった名前で。私たちはDavid Cronenbergとかの80年代のホラー映画が好きっていうのもあったから。でもバンド名としてはちょっと響きがレトロ過ぎると思って選ばなかったんだけどね。でも2019年夏のツアー中にバンド名候補のリストを見つけて、その頃ちょうど次はどういう音楽を作るか考えていて、それでこのタイトルが浮上してきた。音楽的にも男性陣2人がそういった映画のサントラだったりが好きなのは知ってたし、私自身もそういったテーマやイメージを使いつつもホラーの世界観ではない、よりパーソナルな歌詞が書けるかもしれないと思って。

 

ー今作を制作する上で影響を与えた作品は?

イメージ的な部分でホラー映画からの影響が大きいっていうのもあって、作る上でかなり映画やドラマを観たの。『Videodrome』とか『Twin Peaks』とか、あとはJohn Carpenterの作品全般とかWes Cravenとかその辺。若い頃に観たものを改めて観直したり、そういったストーリーを女性の視点で語るっていうのがまた面白かった。それから音楽で言えば、The CureやThe Smith、Annie Lennox、Cyndi Lauperあたり。そういった過去に受けた影響を現代に移し替えて、どう未来的なサウンドを作るかっていう。

 

 

ーコロナ渦になって気付いた自身の変化はありますか?

人生の優先順位をリセットするという意味では、今回の状況は役に立ったと思ってる。このアルバムはパンデミックについて書いたわけじゃないけど……なんだろう、この状況があったからこそ、作りたいものを作ることが許されるライセンスを手に入れたような感じがしたというか。現実の生活は何もかもがとんでもなく恐ろしい状況で、そんな時に何が悲しくて自分にとってどうでもいいポップ・アルバムを作って時間を無駄にしなきゃいけないんだ、みたいな気がしてきて。そういうことがかなりの後押しになって、これまでとは違うものを書くことに挑戦しようと思えたんじゃないかと。今回の歌詞は今までよりも物語的で映像的で、もし2020年以前と同じような状況だったら、果たしてやってみようと思ったかなっていう。全ては不確かで、何の保証もないんだということが今回改めて浮き彫りになったからこそ、最高の自分になろうとすること、自分にできる最高のアートを作ろうとすることしかないんだって思ったというか。そういう意味ではありがたかったかな。

 

ーそれらはどう昇華されていったんですか?

今作に対するみんなの反応を見ていると、これまでにはなかった感じの語り方だったり共感の仕方をしてくれていて、それって最高のフィードバックだと思って。今回私が語っているストーリーは、これまでに自分の身に起こったダークな経験だったり後ろ暗い行いについてなんだけど、それが共感を呼ぶなんてアーティストとしてそれ以上に望むことはないなと思う。

 

ー自身の過去と向き合っていくことは負担が大きいと思います。それでも向き合いながら音楽を作っていく理由を教えてください。

私はわりと過去のことにこだわるタイプで、もしかしたら必要以上に考えてしまうこともあって。良く言えばノスタルジック、悪く言えば過ぎたことをくよくよと考えちゃう。良い曲を書くためには、自分に置き換えて考えたり、痛みを自分のものとして感じる必要があると思う。私以上に私のことを役立たずだと思ってる人は多分いないとか、そういう自己嫌悪って多くの人が共感できると思うんだよね。誰にでも自分の嫌いな部分があるし、もっとこうすれば良かったと思ってることがあったり、後悔してることがあったり、今作は、そういうものといかに折り合いを付けて前に進むかっていうことを結構描いているの。

 

ー日本はまだまだ女性が声をあげるのが難しい風潮があると思います。声を上げづらいながらも、何かを変えたいと思っている方にアドバイスはありますか?

自分の家族にいる女性や、これまで出会ってきた女性に教えてもらったのは、常に自分自身の味方になれるくらいに自分を大切にしなさいってことだったと思う。それは例えば、仕事でも私生活でも恋愛でも、相手と一線を引けたらもうそれで勝ったも同然で。境界線を引くのってすごく難しいことで、特に女の子はそういうことはしないものだと言われて育っているから。「Good Girls」の主旨は、良い子にしていれば悪いことは起こらないって言われてきたっていうこと。やれと言われたことを言われた通りにやっていれば、誰もあなたを傷つけないし悪いことは何も起こらないっていう。でも私はそれが本当だとは思わない。女性が冷静に振る舞ったり自分の思うがままに生きているだけで反感を買うこともあるしね。とにかく個人的にこの10年を振り返ってみても、大きな出来事や何かのために立ち上がるっていうよりも、段階的に少しずつ変化してきたんじゃないかなって。でも声を上げるってすごく難しい。実際私自身もそういうことについて曲で書いてるのに自分では行動しなかったりして、我ながら偽善者だと思うこともあるし。でもだからこそ音楽は素晴らしいもので、私は曲を書くことで、リスナーはそれを聴くことで、自分の存在が他の人から見えていると感じられる。音楽史のほとんど、というか歴史のほとんどは男性によって書かれているから、男性が占める空間で女性の声や物語をもっと増やすのは大事なことだと思う。だからこれまで作品を発表してきて、多くの女性が「この曲はまるで自分のことを言ってるみたい」とか言うのを聞くと、そういうものがまだ足りないってことをすごく悲しいと思う一方で、自分がマイクを握っている間は、自分の視点や女性の視点から見た女性のためのストーリーを語るべきだと思ってる。

 

ー音楽で発信する内容は常にリアルであるべきだと思いますか?

私にとって、曲で語るストーリーは常にある程度はパーソナルなもので、完全に抽象的なものってほぼ書いたことがないと思う。たとえ一見そう見えても、そこには何か私的な要素が入っていることを自分ではわかっていて、そこに隠喩のレイヤーを重ねたりしているっていう。真実を語る最良の方法は、事実からフィクションを創作することだと思ってて、その方がより正直になれると思うし、CHVRCHESの歌詞を振り返ってみても、自分的に一番良い出来だと思ってて、最も赤裸々に自分をさらけ出している歌詞にはメタファーが重ねられているから。フィクションを通して真実を語るっていうやり方は、作ってくる中で学んできたことだと思う。

 

 

ーあなたにとってのメンターは誰ですか?

音楽を作ったりバンドとして活動する中で、多くの女性との出会いがあって、それは本当に幸運なことだったと思ってる。ParamoreのHayley Williamsもそうだし、GarbageのShirley Mansonもいつもすごく親切にしてくれて、彼女はスコットランド人だからバンド初期の頃に声をかけてくれて、「これから色々あると思うけど、もし助けが必要な時は私がいるから」って言ってくれた。それは本当にありがたくて、というのもバンドをやって暮らせるっていうのはもちろん最高なんだけど、女性ならではの経験もあるから。そういった支えがあって本当にありがたかった。

 

ー幼い頃から変わらない自分の性格を教えてください。

改めて気付いたのは、私はずっと物語がたまらなく好きだったってこと。だからこの仕事をするようになったのかもしれないなあと思って。子どもの頃も、ごくごく短い悲しいお話を紙切れに書いて、その紙を畳んで「私が作った本だよ」って言ったりして。『指輪物語』を実話だと思ってたし、中つ国(ミドルアース)は実在すると信じてた。それって素敵な逃避だと思うの。もちろん大人になって皮肉っぽく物事を見ることも多いけど、そういう逃げ場が必要だっていう部分は変わってない。だから映画を観るのが大好きだし、音楽にしても、何か一つのものを好きになるとCDに傷が付いて聴けなくなるくらい聴くタイプで。逃避を助けてくれるものを見つけると、とにかくそれが好きってなる。

 

ー女性にとって、ファッションはどういう意味があると思いますか?

アイルランドのQueens of Archiveっていうブランドが好きで、一度ヒョウ柄のドレスをライブで着たことがあって。バンドの中の自分の立場的に、女性性と戯れたり身をかわしたり、男性の領域における女性という意味を考えたりするんだけど、昔はわりと女性らしさをトーンダウンさせていた。その方が真剣に受け取ってもらえるんじゃないかと思ってたから。でも今はその考え方を恥ずかしいことだと思っていて、だってそれも含めて自分のパフォーマンスだし、自分という人間だから。バンドを離れたところでも、自分の見た目でクリエイティブになるのって楽しいしね。メイクも含めて、女性は男性のために着飾ってるんだと決めつける人がいるけど、そうとは限らないと思う。女性は自分のためだったり他の女性たちのために着飾るもの。だから外見で遊ぶのは楽しいかもって、ここ数年で考えるようになって。着るものによって気分が上がったり自信を持てたりもするしね。

 

 

ー今はどういった音楽を聴いていますか?

今は改めてモータウンのレコードを聴き直してる。最近公開されたアレサ・フランクリンの伝記映画を観たばかりなんだけど、子どもの頃両親が家で聴いてたから私も大好きだった。彼女の声って史上最も素晴らしい声の一つだと思う。あの頃のソングライティングもすごく興味深いし、しかも当時のミュージシャンたちのスキルの高さと言ったらとんでもなくて、当然オートチューンもMIDIもなかったわけで、全員がレコードから聴こえてくる通りの素晴らしい演奏をする腕を持っていたっていう。バンドでライブ録音することも多かったしね。改めてその未加工の演奏を聴くとすごいなと思う。料理をしながら聴いてたりしても、うわっすごい、自分にはこんな才能ないなって思っちゃう(笑)

 

ー日本へはまた来てもらえますか?

もちろん。行ける日が来るのが待ち遠しい。日本の友達はみんなすごく優しいし、とにかく音楽に取り憑かれてる。もし好きなバンドがあったらそのバンドの全てを好きになって全公演観ちゃうとか。スコットランド人と同じように音楽を愛してるなって思う。安全に行ける日が来たら絶対に、絶対に行くから!

 

*このインタビューは2021年12月30日に発売されたVI/NYL #003のために実施されました。

*写真は全てアーティストからの提供です。

 

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