@daughtersofreykjavik
2013年に結成されたヒップホップバンド。アイスランド南西部に位置する人口約12万人の港湾都市・レイキャビクを拠点に活動しており、フェミニズムやジェンダーなどの社会問題について言及した楽曲で多くの人の支持を集めている。2019年にはユーロソニックフェスティバルでMME賞を受賞し、2022年にはヨーロッパ最大規模の音楽コンテストであるユーロビジョン・ソング・コンテストのアイスランド国内決勝戦に参加するなど、国内での注目度も高い。
ーあなたが住んでいる街について教えてください。
レイキャビクというアイスランドの本当に小さな都市。どのくらいの人が住んでいるのかはっきりわからないけど、良くも悪くも、お互いがお互いを何となく知っているような感じ。人口がこれだけ少ない地域だから、どんなジャンルでも国内でー番を目指しやすいと思う。だから、みんなビッグになってやろうとたくらんでるの。例えば私は、アイスランドで一番の女優にもなりたいし、アイスランドで一番のラップスターやポップスターにもなりたい。ここならみんなが協力的だから、そのすべてをかなえられる可能性がある。レイキャビクは言ってみれば、とても大きな考えを持った小さな都市ね。
ー周りの音楽シーンのトレンドは?
ラップ人気が長く続いている。世界的に見ても同じだと思うけど、ヒップホップはトレンドというより主流になりつつあるよね。最近のトレンドとしては、80年代風のポップな音楽やハウスだと思う。音楽のトレンドは変わっていくものだけど、ラップから受け継がれている部分は大きいと思う。だけど、よりソフトに、メロディックになってきている感じがしてる。
ー音楽を始めたきっかけは?
私たちは2013年に音楽を始めたんだけど、その年、オープンマイクのようなものを開催しようっていう案がアイスランドで持ち上がって。そのオープンマイクというのは、女性ラッパーのためのイベントで、女の子たちがラップを試せる安全な場所、といった感じのイベントだった。これがかなり話題になってメディアも取り上げ始めて。それで、オープンマイクに参加してた私たちのもとにも声がかかるようになったの。「今度あなたたちでパフォーマンスをしてほしい」とか「バンドでライブに出ませんか?」って(笑)。そういうことなら、もちろんパフォーマンスします! って感じで、今の形に繋がっていったのが始まり。自分たちのことをバンドという風には思っていなかったんだけど、メディアからはバンドだと思われていて、いつの間にかこうなっていった感じ。2015年からは海外からのオファーもくるようになってきて、「初心者の私たちがこんなステージに立っているなんて!」と信じられない気持ちだった(笑) いきなりディープな世界に投げこまれた完全な初心者だったけど、今思えばすごく良い経験ができたと思っているの。
ー今はどんな音楽を作っていますか?
今の私たちは、ちょうど一周回ったという感じなのかな。色んな経験を経て、困難を一緒に乗り越えてきて、柔らかく感情的でメロディックな音楽を作り始めているの。最初はフェミニストのパンクバンドのような形で活動をスタートして、多くのフェミニズム問題と向き合ってきたけど、今の私たちはセクシーなヒップホップバンドというほうがしっくりくるかも。自分たちの心に正直に向き合って作った最新アルバムは、本当に美しい作品になったと思う。元々やっていたパンクでもう一度挑戦するためのスキルと、それをやりぬくためのエネルギーとアイデアが盛り込まれているから。
ー制作のインスピレーション源は?
そのときによって違うけど、制作を始める前にみんなそれぞれ自分の好きな曲を入れたSpotifyのプレイリストを作って、そこからインスピレーションを得ることが多いの。プレイリストに入っている曲は、ラップからクラシックまでジャンルは様々。メンバー同士でお互いに刺激をもらいながら制作をしているんだけど、アルバムを聴いてもらえれば、私たちが幅広いジャンルの音楽からインスピレーションを得ているということがきっとわかるはず。他にも、一緒に出かけたり、パーティーをしたり、みんなで楽しい時間を過ごす中で、良いアイデアが浮かぶこともよくあるわ。
ー今、気になっている社会問題は?
以前は社会問題について積極的にラップをしていたけど、最近はあまりしていないの。私たちは常に先陣を切って、声を上げることすら難しい問題に向き合ってきたけど、ただ強く支え合うこと、それ自体が私たちの起こすことのできる最も大きな社会変革なんだと感じたから。フェミニズムについてラップしている頃は「なぜラップしているの? もう伝えるメッセージはないんじゃない?」と言われることもあった。でも、男性たちは自分の腕時計についてラップしてるじゃない? だから私たちも、ラップで歌いたいものはなんでも歌うことにしたの。もしそれが「今日の朝食にシリアルを食べた」というようなことでもね(笑) 大っぴらにしていなくても、これまでにもフェミニズムの曲は作ってきたし、そういった問題については常に関心を向けていて、メンバー同士で話し合ってきた。バンドとして世界に送り出すものを通してだけではなく、友達としても。そういう私たちの意識は、自分たちでも気付かないうちに作品に入り込んでいるし、ミュージックビデオでもそれを感じることができると思う。聴く人をハッとさせる何かは、常に私たちの曲の中に存在していて、フェミニズムは私たちの曲のベースに常に流れているから。
*このインタビューは2022年5月23日に発売されたVI/NYL #007のために実施されました。
*写真は全てアーティストからの提供です。
■VI/NYL