#008-OliverSim

#008-OliverSim

Instagram: @hideousbastard

ロンドン出身、2005年のThe xx結成時からソングライター/ベーシスト/ボーカリストとして活動。2017年のThe xxとして『I See You』を大成功させた後、メンバーそれぞれが個人としての活動を積極的に展開。2022年9月9日に世界同時発売となるアルバム『Hideous Bastard』で、待望のソロデビューを果たす。

 


The xxのメンバーとして知られるOliver Simが、2年の制作期間をかけて丁寧に紡ぎあげたソロデビューアルバム『Hideous Bastard』をついにリリースする。自身のパーソナルな部分を、時に痛みを伴いながらも楽曲へと昇華したその真摯な想いを聞かせてもらった。

 

 

ー待望のファーストアルバムをリリース。まずはその感想から聞かせてください。

すごく嬉しいよ。でも同時に、今7月の初め(※取材時点)で、アルバムの発売の9月まで2カ月待たないといけないから、じっと耐えてる感じかな。だからちょっと不安や緊張もある。早くリリースして、みんなの意見を聞いてみたい。すごく興奮もしてるんだ。このフィーリングは、最初にThe xxのアルバムを出して以来感じていなかったから。純真で新しい感じ。このフィーリングを再び感じることができたのはすごく嬉しい。そういう意味でも、今はすごくエキサイティングな時期だと思うね。このアルバムは自分自身も気に入ってる作品だし、とにかくみんながどう思うかを知りたくてたまらないんだ。

 

ーご自身の内面を深く掘り下げた内容となりましたが、あなたの一部を表現していく制作作業はどういった経験となりましたか?

アルバムを作ることが容易でないということはわかってたんだ。これまでにやってきたことは、The xxという世界の中で2人の親友に守られていた中でやってきたことだった。あの世界では、2人の手を握っていられるから、自信を持つことができる。でも今回はそれがなかったから、やっぱり大変だった。でもその分やりがいを感じることができたし、多くを学ぶことができたんだ。テーマがすごく重いけど、恐れや恥ずかしさといったものについて曲を書くというプロセス全体に大きな喜びを感じることができたからね。それを世間にさらけ出してシェアするっていうのは、もちろん気まずくもあった。でも、自分自身を放つことは大事だったし、曲を書くことでカタルシスを感じ、癒しを感じることができたんだ。

 

ー音楽として表現することで、あなた自身が救われた部分はありますか?

もちろん。今回学んだのは、恥や恐れに効く一番の解毒剤の一つは、それについて話すことだということ。これまでにそれを試みたことがなかった。逆に、できるだけ隠そうとしていたからね。でも曲を書き始めて、それについて語っていると、それ自体がまるでセラピーのようだったんだ。だから、曲を書くことで、自分自身すごく救われたと思う。

 

 

ー今、内面をさらけ出そうと思った根拠とは?

これまでで、多くを学んだんだよね。前回のThe xxのレコードを作った時は、Jamieがソロアルバムを作った直後だったんだけど、あの時の彼はその経験からたくさんのことを学んで、新しいアイデアや作業の仕方を見せてくれた。その影響で、私とRomyも自分の音楽を作ることを考えるようになったんだ。新しいアイデアを得るためにね。2人が大好きだし、バンドは常に私のホームだけど、もっと友達をつくらなきゃって思って(笑) 今回は、それを実行したんだ。2人だけしか音楽の友がいないって状況は、クリエイティビティを鍛えるためにも良くないなって(笑) 結果、やってみて良かったと思う。でも、これで学んだことはバンドに持ち帰るから、結局バンドが大好きだし、全てはバンドのためなんだけどさ(笑) バンドとしての成長のためにも、自分が新しい世界で新しいことに挑戦して、何かを学ぶことは大切だったんだ。

 

アルバムの中でも「Hideous」を生み出す作業は困難を極めたと思います。制作の過程を教えてください。

この曲は、アルバムの内容がわかっている時点で書いたんだ。曲を書こうとしている時、アルバムでは、恐怖、恥じらい、男らしさ、祝福、喜びといったテーマには触れていたから、自分が一番恥ずかしく思っていることを考えた。そして、それがHIV感染者という立場かもしれない、ということに気付いたんだ。だから、この曲を作ることにした。そして、この情報をシェアすべきか、シェアしないほうがいいのかをじっくりと考えた結果、曲作りの最後の最後で、公表しようという気持ちを固めたんだ。曲を書く過程は、すごく衝動的だったね。曲作りでは、誰かに話すよりずっと正直になりやすいから。曲作りって、どこかの場所にいるわけじゃなくて、自分自身との会話なんだよ。誰とも目を合わせなくていいし、その空間にいる人の反応を見る必要もない。で、そうやって作った曲を母親に聴かせたら、“ちょっと劇的すぎるかもしれないわね”って言ったんだ。そして、まずは会話をしてみたらどうかとアドバイスをくれた。赤ちゃんが歩けるようになる過程のように、少しずつ、少しずつ親しい人たちに自分のHIV感染について話し始めてみたらどうかって。そうすることによって自分が何を感じるかを確かめてみることで、もっと伝わりやすいものが出来るんじゃないかという意見をくれたんだ。母親はすごく賢いんだよね。あのアドバイスは、彼女がこれまでにくれた最高のアドバイスだった。それで、実際に会話を始めてみたんだけど、実際に、衝動的に作った曲の通りに話してみると、心地がよくなかった。そして、衝動的ではなく、伝え方をちゃんと考えることで、話すことがどんどん怖くなくなっていったんだ。この曲が出来上がったのは、お母さんのおかげ。この曲を作ったことで、会話をすること、話すことがセラピーになるようになった。恥ずかしいことって、普通は隠しておきたいものだし、人に話さず秘密にしておきたいよね。でもこのアルバムを作ったことで、私はもっと話せるようになった。それはすごく良かったと思う。

 

ーゲストボーカルにJimmy Somervilleを迎え入れた理由は?

さっき、新しい友達をつくる必要があったっていう話をしたよね(笑) そのために最初にコンタクトを取ったのがJimmyだったんだ。Jimmyは長い間特別な存在だった。彼の声は本当にパワフルだし、メッセージは政治的で強いけれど、音楽的にはまるで天使のように聴こえる。彼は天使のように歌うから。そこで、彼に連絡を取ってみることにしたんだ。ロンドンでロックダウンが始まった頃だった。自分があまりクリエイティブになれてない時期で、自分が憧れ、尊敬する誰かのクリエイティビティの力が必要だと思って、彼のメールアドレスをもらったんだ。で、“Somervilleさん、こんにちは。あなたの大ファンです。お元気ですか?”ってメッセージを送った(笑) そして、それ以来、彼はペンパルになったんだ。そこから彼との友情が始まった。そして、友達になって数カ月たった時、彼が、私のアルバムをサポートしたいと言ってくれたんだよ。意外なことに、彼もそれに対して恐れを感じていたんだ。彼に連絡を取った時は、彼は怖いもの知らずの人だと思っていた。あんなにゲイやクィアの権利の主張や、積極行動主義、HIVなんかについて、何十年も堂々とメッセージを伝えている人だから。でも彼を知るようになると、彼にもたくさん恐怖があることがわかったんだ。そしてだからこそ、彼の作品があんなにパワフルなこともわかった。簡単なことではないのに、彼は努力してそれらの恐怖を乗り越えて作品を作ってきたからこそ、あのパワフルな作品が出来る。彼は今60代だけど、彼が私とJamieとスタジオに入って口を開いて歌った瞬間、Jamieも私も涙が出そうになった。彼の声はそれくらいピュアで完璧だったんだ。彼のことは大好き。彼とは、1日置きに今でも話してるよ。面白いし、変人だし、すごく気が合うんだ。

 

 

今回、短編映画としての『HIDEOUS』を制作した理由は?

好きなアーティストは、みんな音楽以上のものを作ってる。音楽の周りに、その世界を作り出してることに気付いたんだ。リスナーがその中に入り込める世界。David Bowieも、Björkもそれをやってる。今回私は、心を正直にさらけ出したアルバムを作ったわけだけど、あまりにもリアル過ぎるものにはしたくないと思ったんだよね。ちょっとしたファンタジーとか、アドベンチャーの要素を取り入れたいと思ったんだ。そこで考えたのがホラー。子供の頃からずっとホラーが好きだから。で、Jimmyと同じ頃に、監督のYann Gonzalezにコンタクトを取った。彼は怖くてダークなんだけど、同時にエモーショナルな要素やファンタジーの要素もあって、笑えるホラー映画を作る監督なんだ。作品がすごくカラフルなんだよね。だから彼に連絡を取った。その時はコラボをしたいとかよりも、どうやって明るさと暗さを同時に持った作品、怖さと笑いの両方を持った作品を作れるのかを聞きたかったんだ。それ以来、彼ともペンパルになって、一緒に実際に仕事をするまで、1年間もずっと会話を続けてた。彼もスペシャルな人で、私はミュージシャンであって役者じゃないのに、そんな私でも心地いいと思える空間をセットの中に作り出してくれたんだ。そのおかげで、現場が本当に楽しくて、自分も演じることができるって思えたんだよね。彼とは共通点もいっぱいあることがわかって、彼が彼自身のことを意識して何かを書けば、自然と私と繋がったものが出来上がるんだ。とにかく、彼とのコラボレーションは本当に楽しかった。

 

役者としての表現はアーティスト活動とどのような違いがありましたか?

役者の仕事では、ほとんどモンスターになっていた(笑) 顔は覆われていて、自分自身は隠れていることができたんだよね。だからあれだけ楽しめたんだと思う。まるで自分じゃないような気持ちになれたから。仮面を着けていたわけだからね。大変だったのは、その仮面を着けていなかったとき。そして、怪物だけどよくいる人を殺すような怪物ではなくて、怪物でありながら繊細で高潔な側面を表現しなければならなかったこと。その2つが大変だったと思う。ステージに上がってパフォーマンスをすることも、同じパフォーマンスではあるんだけどね。自分というキャラクターをみんなに見せるわけだし。でも、演技ってそれ以上のことが求められると思う。

 

ーこれを機に、演技の世界にも興味を持つようになったりはしましたか?

仕事はやっぱり音楽(笑) でも、もし誰かモンスターの役ができる人を探していたら、一応声かけてみて(笑)

 

 

ーソロとしてアルバムを完成させた今、今後のビジョンはどう見えていますか?

まず一つは、もっとショーがやりたい。スタジオにいるのも大好きだけど、ステージにいて、そこから人々の顔を見ることができて、リアルタイムでみんなと繋がりを感じることができるのは本当に素晴らしい瞬間なんだ。だから、もっとショーをやって、世界中の人たちに会いたい。もう一つは、次のThe xxのレコード。ソロアルバムも完成させたし、早くまたバンドで音楽を作るのが待ちきれないんだ。しかも、今回のソロアルバム制作の経験で成長できたと思うから、2人に成長した自分の姿を見せて感動させたいんだよね(笑) 新しいアイデアがあって、より自信がついた状態でThe xxの音楽が作れるなんて興奮するよ。Romyも彼女のソロアルバムを仕上げようとしているところなんだけど、彼女の音楽もまた全然違うし、3人がそれぞれに学んだ異なる知識のコンビネーションが、バンドの音楽に何をもたらすのかがすごく楽しみ。自分の心の拠り所はいつだってThe xxだからね。

 

 

INTERVIEW : SADANORI UTSUNOMIYA

TRANSLATION : MIHO HARAGUCHI

 

*このインタビューは2022年8月10日に発売されたVI/NYL #008のために実施されました。

*写真は全てアーティストからの提供です。