三代目 J SOUL BROTHERS のボーカリストとして、12 年もの間、国民的グループを牽引してきた今市隆二。2018 年にソロプロジェクトを始動してからは、さらに加速度的に、そ の足を止めることなく最前線を走り続けている。今年、ソロツアー『RYUJI IMAICHI CONCEPT LIVE 2022 “RILY'S NIGHT”』を開催し、11月には4thアルバム『GOOD OLD FUTURE』をリリース。次なる領域展開をイメージし、その先にある未来を見つめる彼の眼光は、混沌とした現代の闇を照らすが如く、強く深く光り輝き続けている。
*このインタビューは2022年11月30日に発売されたVI/NYL #010のために実施されました。
ーファッションに関して、デビュー当時からどんな変化がありましたか?
一言でいうと、両極端になりました。めちゃくちゃシンプル か、めちゃくちゃ派手かという、0か100どちらかになりました。もともとそういったファッションが好きなのもありま すが、シンプルでいうと、デニムに白いTシャツ、派手でいうとヒョウ柄などの柄物もよく選びます。僕はデビューして12年目を迎えるんですが、この期間に、どんどん楽なものが いいなって思うようになりましたね。今年の夏は、新たに買ったサンダルを愛用していました。
ーデニムにTシャツって、実は着こなしが難しいですよね。
そうなんですよね。似合うようで似合わない、難しいものなんです。ずっと着られたらいいなって思いますね。
ーよりカジュアルでリラックスできるものを選ぶようになったのかもしれないですね。 特に意識が変わったのはどんなところですか?
最近は“質”を重要視するようになりました。Tシャツも素材感がいいものを選ぶようになったんです。以前はそこを気にしていなかったんですが、洋服を買うときに、長く使えるか どうかも気にするようになりましたね。ハイブランドでも、 そうではなくても、その時々の旬なシーズンものではなく、 長く使えるデザインのものを選ぶようになりました。
ー考え方が年々シンプルになってきたのでしょうか。
以前はシーズンものをバンバン買ったりしていたんですけど、 アーティストをやっている以上“最新のものを着たい”という 気持ちが強かったんですよね。
ーブランディングという意味でも大事なことですよね。
年齢を重ね36歳になった今、流行りではなくいいものを着るという、そこに変化が現れてきたように思います。
ービンテージデニムへの愛が強いということをよくお話しされていますが。
ビンテージに関しては、愛が重くなっています(笑) 以前から好きでしたが、今が一番好きかもしれないですね(笑) 色んなビンテージ物との出合いもありましたし、知識も増えていき、知るほどに沼を感じるんです。それって“男の究極”なのかなと思っていて。
ービンテージデニムは飾るタイプですか? はき潰すタイプですか?
ガンガンはいています。“自分色に染まる”とまではいかないですが、デニムが自分の形に馴染んでいく過程が好きなんです。それがビンテージデニムの味だと思っていて。どういう 職業の人がはいて、どういう動きをするのかで、ヒゲやハチノスの形が全部変わってくるので、そういった時代背景や歴史を感じるところが好きなんです。そこに自分の雰囲気を付 け加えることが大事だと思うので、ガンガンはくようにして います。デッドストックで誰も着ていないようなデニムだったら額に入れて飾ると思うんですけどね(笑)
ーデッドストックのデニムは持っているんですか?
それがまだ持っていないんですよ。いつか、いい出合いがあ ったらいいなと思っています。ただ、普通に着ていると、ビ ンテージなのでポケットに穴が開いてしまうとか、股が裂けるなど、色々トラブルがあるんです。そうなってしまうのはもったいないので、ある程度は気を付けるようにしています。
SHIRT, PANTS, BRACELET, BELT, BOOTS by SAINT LAURENT BY ANTHONY VACCARELLO
ー今回のアルバム『GOOD OLD FUTURE』も “古き良き” がテーマだとありますが、昔からビンテージなものを大切にされるタイプです?
感覚的にそういった気質があったかもしれないですね。もちろん、最新のものも好きなんですが、過去のカルチャーやアイテム、音楽も歌謡曲などが好きだったんです。今になって、 あらためて自分の気質を再確認した気がします。
ー10 代の頃からクラスメイトとは違う音楽を聴いていましたか?
そうですね。たぶん、育った地元の雰囲気や環境で違うとは 思うんですが、僕が育った街には不良カルチャーがあったんです。なので、上下関係などもしっかりしていたんですよね。 でも、他のメンバーは僕が通ってきたカルチャーをそこまで通っていないんです。それよりもクラブに行ってダンスをしていたりしていて。グループに加入した時に、大きなカルチャーショックを受けました。
ーデビューしてからクラブを経験したんですか?
数回行ったことはありましたが、がっつりはなくて。でも、実際に行ってみて、知らないことに触れて、すごく新鮮で楽 しかった。
ー流れている音楽も、今まで聴いてきたものとは違うもの だったのではないでしょうか。
そうなんです。なので、クラブに通い始めて聴く音楽がガラッと変わりました。クラブって色んな遊び方があるじゃないですか。出会いを求めていく人もいれば、シンプルに音楽を聴きに行っている人もいる。全てにおいて、クラブカルチ ャーはすごく勉強になったので行って良かったです。
ーデビューしてから音楽の知識やカルチャーをたくさん学ばれたのですね。
聴く音楽の幅は、デビューしてからかなり広がりました。メンバーやダンサーと出会ったことによって、ダンサーのカル チャーも知ることができましたし、音楽も知ってHIP HOPと 出合いました。あとは、何よりもラジオ番組を持たせていただいたことが大きかったですね。レギュラーでラジオ出演することによって、ジャンルの垣根なく音楽が聴けるようにな ったんです。それまでは本当に聴く音楽が偏っていたんですよ。歌モノか R&B しか聴かなかったんです。
ー自分にとって一番気持ちがいい音楽ですよね。
HIP HOPやダンスミュージックは、デビューする前は自分から選んで聴くことがなくて。もちろん、有名なラッパーなどの名前は知っているんですが、触れる機会がなかったんです よね。あとは、クラシックピアノをやっていたので、それに付随する音楽ばかり聴いていたんです。今、ラジオ番組のことを振り返ると、通算して何枚アルバムを紹介してきたんだ ろうって思うんです。こういった貴重な場を与えていただけたことに、すごく感謝しています。
ー自分の中にいろんなジャンルの音楽が蓄積されていくと、 新たな発見も多いですよね。
めちゃくちゃ発見がありました。わかりやすく言えば、どんなジャンルの音楽も、全部“音楽”ですよね。今まで、勝手にその幅を狭めてしまっていたからこそ、そのたがが外れて、 より音楽を楽しめるようになったんです。ちなみに前作の 『RILY’S NIGHT-百合演夜-』ではシティーポップをやったり、 今回は R&B の原点に戻って曲を作ることができたんです。その時々に良い音楽に触れることで、色んな冒険ができるようになりました。
ー聴き方も変わりましたか?
僕はボーカリストなので歌をメインに聴いていたんですが、 最近はトラックや音色などを聴くようになり、かなり耳が変わったように思います。曲を聴くたびに「このビートを使っ ているんだ」「こういうリズムなんだ」と思うようになりましたし、それと同時に、ミュージシャンとして徐々にスキルが上がっているのかなと感じています。
ー楽しみながらも勉強のように聴いてしまうことがあるのではないでしょうか。
ありますね(笑) デビューから12年間、プロとして音楽に触れているので、好きで聴いていたものが、どこかチェック になっているところがあるんです。「ビヨンセはこっち系になったんだ」とか、「このアーティストは今回ハウスだな」とか......。そういう意味ではナチュラルに聴けなくなっちゃっているんですよね。でもそれは仕方のないことだし、リラックスしたいときは、歌が入っていないものなどを聞くようにし ています。最近はジャズなどを聴いて落ち着くことが多いで すね。
ーそれらを全て超えて感動するというのは、本当にすごい曲なんだと思います。
今でも刺激を受けるアーティストがいることはすごくありがたいですし、そこにワクワクするんです。感動することがな いと、クリエイティブのアイデアも刺激されないので、これ からも色んなアーティストの音楽に触れていきたいですね。
JACKET, SHIRT, PANTS, BROOCH, BRACELET, BELT, by SAINT LAURENT BY ANTHONY VACCARELLO
ー新たなことに感動する柔軟さは、以前からあったのでしょうか?
柔軟さを取り入れられるようになった、という感覚ですね。 若い時は「バラード最高!」っていう感じで偏っていたんですよ(笑) そう考えると、かなり変わりました。
ーソロでやるとなるとバラード一色にすることもできたわけですよね。それがここまでジャンルレスになる未来を想像していなかったのではないでしょうか。
全くしていなかったですね。デビュー当時の自分がこのアル バムを見たらビックリするんじゃないでしょうか(笑) こんなに色んな音楽に挑戦することは想定していなかったし、 デビューして、本当に色んなアーティストを知り、ジャンル問わず聴くようになったからこその今なんです。好きなア ーティストが増えることによって、感覚も変わりましたしね。 今は歌って踊るエンターテインメント、例えば、Michael JacksonやJustin Timberlake、Bruno Marsなど、そういったアーティストたちが理想なんです。デビュー当時はボーカルを一番に考えていたので、すごく変わったなと思います。
ーニューアルバム『GOOD OLD FUTURE』は、本当に一曲一曲驚かされるほどジャンルレスでしたが、選曲から楽しんでいらっしゃったんじゃないかなと感じました。
僕は音楽人なので、常にトレンドや時代の流れを知るために、 色んなアンテナを張って、自分が何をするべきかというこ とを考えています。今回に関しては、日本でも音楽の受け取られ方が変わってきているし、サブスクがメインになる中で、 時代もガラッと変わっていきましたよね。そこで、今までだ ったらトレンドを考えていたところを取っ払って、一度自分が本当にいいと思うことをやってみるべきじゃないかって思ったんです。それもあってR&B に立ち返ったんですよ。
ー原点回帰ではあるけれど、今までの経験があるからこそ 違う感覚で歌えているのではないでしょうか。
これまでは、アルバムを作るとなるとライブを意識して選曲しているんですよね。それは、自分たちがライブをメインに活動しているからなんです。それもあって、ツアーやライブ をするからこそ、その前にアルバムを作ろうというのが今までの形だったんですが、今回はそうではなくて、ツアーが始まった中でアルバムを出すという逆の作り方をしたんです。
いつもならライブのオープニング曲が1曲目に来て、起承転結があって、バラードがあって、盛り上がって終わるというベースがあるんですが、そこを意識せず好きなものを集めま した。
ーライブと並行して作ったということですか?
本当にその通りで、基本的にはツアーと並行して作ったんです。一言、大変でした(笑)
ーツアー中はいつものメンタルと違うと思うんですが、それがいい方向に曲に乗ったのではないでしょうか。
本当にその通りです。6月からホールツアーをしていて、計算すると3日に1回のペースだったんです。今までそのペースでライブをしたことがなかったので、スケジュール的にも大変でしたね。でも、不思議とずっといいマインドなんですよ。毎回何千人という人と向き合っていて、自分の想いをス テージ上で発して、来てくれた人たちのそれぞれの想いとぶつかるという時間を3日に1回やっていると、「この人たちのために何かできることはないかな」って、より思うようにな るんです。心が洗われる感覚にも似ていて、本当にいい環境 なんですよね。そこで見て感じたファンの人をイメージして作ることができました。
ー3日に1回、その対象の人たちに会えるって素敵なことですね。
自分が存在している意味もそうですし、自分がやるべきこと、これからやっていくべきことをファンの人たちが見出してくれる感覚なんです。そのうえでこのアルバムを作ることがで きたので、すごくいい一枚ができたなと思っています。
JACKET, PANTS, RING, NECKLACE (held in hand), BOOTS by CELINE HOMME BY HEDI SLIMANE
ー『星屑のメモリーズ』というタイトルは、ファンの人たちからの公募で作られたんですよね。
すごく評判が良かったですね。自分が思っていることとすごくリンクしていましたし、当時は80’sリバイバルをテーマにしていたのでピッタリでしたし、歌謡テイストも感じるだけ でなく、ちょっとしたエモさも文字面から感じられて、すごくいい曲になったなと思いました。
ー自分たちがタイトルを付けた曲が採用されるのって、ファンの人たちはすごく嬉しいと思います。
色んなタイトルをいただいたんですが、この『星屑のメモリーズ』はすごくハマっているし、皆さんも気に入ってくれたようで嬉しかったです。あとライブをやることによって曲がどんどん変化するんですよ。それが楽しくて!
ー歌詞にはない言葉をタイトルに付けるというのもすごく新鮮です。
普通だったら、サビにある「Don’t Say Good Bye」になるんだろうなって思ったんです。もちろん、その案もあったんですが、曲の歌詞の中にないものをタイトルにすることってあまりやったことがなかったですし、この曲を自分が作る時にも、すでにホールで自分がステージに上がった時の景色をイメージしながら作っていたので、実際に歌った時に想像の画とリアルがリンクしたんです。そういう意味も含めて本当 にいいタイトルになりました。
ーこのホールツアーは今年の年末まで続きますが、みなさんの前でこの曲を歌うことで、より歌いたいことの輪郭がはっきりしたのではないでしょうか。
「こういうことを歌いたくなった」というよりは、自分の気持ちが再確認できたように感じます。コロナ禍になりライブが できなくなって、ファンの人とのコミュニケーションが取れ なくなってしまったんですよね。時代的には SNS が便利にな り、Zoomで会えたり、LINE ですぐに顔を見ることができるようになりましたが、僕はそこに対してあまりピンと来ていなかったんです。もちろん便利だけど、人と会わないとちゃんと心は通わないなって思っていて。だからこそ、やっぱりライブってすごく大事だと思ったんです。ライブが与えるパワーって本当にすごいんですよ。自分もパワーをもらえるし、 ライブほどパワーを与えられるものってなかなかないと思っ ているので、それを今回伝えたいと思ったんです。ホールツアーなので距離も近いですし、ライブ中に泣いてくださる方もいるんですよ。あとは80歳くらいのおばあちゃんが一人で杖をついて来てくれたりとか......。小さな子供と親御さんが来てくれることもありますし、色んな人がいることが確認できて、最高の時間を過ごさせてもらっているなって思ったんです。そうやってみんなで来てくれるライブになっているのかなって思うと自信にもなりますし、やれることもまだまだあるなって思うんです。小さな子供が来ているのを見ると、 小さなときに経験することって記憶に残ると思うので、何か いい夢を与えたいなって思いますし......。あとは同性の男性がたくさん来てくれると、自分の存在意義をより感じることができるんです。それがすごく嬉しいですね。
ーそれだけの人が来てくれるということは、これまでより歌を大切にしてきた結果だと思いますか?
そうだと嬉しいですね。歌や音楽にすごく真摯に向き合ってきたと自負しているんです。あとは、歌やパフォーマンスだけでなく、自分の人間性やパーソナルな部分をちゃんと理解 してくれている感じがしていて、そこがすごく嬉しかったです。それって12年ステージに上がり続けてきたこと、この12年間生きてきたことの結果、証しのように感じ取れたんですよね。12年もあれば、幸せなこともあれば辛いこともたくさんありました。でも、諦めずにずっとやってきたことに対して共感してくれるのかなって感じることができたんです。 逆に言うと、ファンの人がいなかったらそれはできなかったので、自分から感謝の気持ちを伝えられる場所があることが嬉しいですし、最高の時間を過ごさせてもらっています。
ーこれからもずっとライブを続けていってほしいです。
ライブをしていると、夢を見ている感じになる瞬間もあるんですよ。毎回最後の曲になった時に、ペンライトがすごくキレイになる演出があるんです。そこは毎回感動しますね。
ー収録曲である「Don’t Give Up」は今作の鍵になる曲なんじゃないかなと思ったんですが、以前からこの曲の構想はあったのでしょうか?
この曲に関しては、『GOOD OLD FUTURE』というアルバムを90 年代のR&Bにフォーカスをして作ろうと決めてから詰めた曲なんです。最初にデモを聴いた瞬間から、「ツアーの 1 曲目になるな」って思ったんですよね。この曲は T.Kura さんと、Gordon Chambersが共作をしているんですが、T.Kura さんは EXILE や、三代目J Soul Brothersの曲を作ってくれている方なんです。さらにT.Kuraさんはmichicoさんとペアで曲を作ってくれているんですが、その曲が、三代目の「Welcome to TOKYO」や「JSB Blue」というライブの 1 曲目にする曲や、「Feel So Alive」など本当に素敵な曲が多いんですよね。でも、最近はこのペアでやる回数が減っていたので、いつかまたこのお二人とやりたいという気持ちが強かったんです。何よりも、僕のソロではこのペアとやったことがなかったので、今回、あらためてやらせてくださいという気持ちを伝え、すごく素敵な曲を作っていただくことができました。そもそもmichicoさんはボーカリストなので、デモの段階で歌を入れてくれているんです。その歌い方がすごく勉強になりますし、 一緒にスタジオに入りディレクションもしてくれるので、色んなことを教えてくださるんです。この関係はデビュー当時からで、フェイクの細かい節回しもmichico さんに教えていただきました。だからこそ、今このタイミングでまたご一緒出来たのは嬉しかったですね。打ち合わせをした時に「今、こういうツアーをして、こういうメッセージを届けているんです」ということをお伝えして出来たのが『Don’t Give Up』 なんですよ。なので、この曲は自分がファンの方に届けているメッセージではありますが、デビュー当時から僕を知っている michico さんから自分に言っていただいてるメッセージ にも聞こえて、心が震い立たされる曲になっているんです。
ーmichicoさんはアーティストとしても本当に素敵な方ですよね。何よりかっこいい。
かっこいいですよね。デモを聴くのも本当にいつも楽しみで、 今回久しぶりに聴かせてもらったんですが、michicoさんが 歌う男性キーの曲がすごくいいんですよ。歌いづらいはずの声を出しているところも素敵で!
ーあらためて、このお二人の曲を今歌えるのは本当に素敵なことですね。
T.Kuraさん、michicoさんとソロでやるタイミングってこれ までもあったかもしれないですが、こういった大切なツアーを回っている中で、ベストなタイミングで出会えて本当に良 かったなと思っています。
ーそういったR&Bの曲がありながら、「Song For Mama」という曲は、よりご自身のリアルな部分を書けた曲になっているように感じました。
この曲が書けて本当に良かったですね。自分の母親はもちろ ん、世界中の母という存在ってすごいなって思ったんです。 みんなママから産まれてくるからこそ、このテーマはいつか書きたいなという思いがありました。自分も36歳になって、 周りの友達も結婚したり子供がいたりという環境の中で、ママってあらためて偉大だと感じた今の時期に書くべきだと思ったんです。
ーそういったテーマでデモを集めたんです?
いや、最初はそういったテーマではなかったですね。アルバムのデモ曲を集めていた時に、母親をテーマにした曲と出合い、「最高にいい!」って思ったんです。その時はラブソング を書こうかなって思っていたんですが、他の曲と照らし合わせた時にラブソングはたくさんあったので、それならずっと書いてみたかった母に宛てたテーマで書けばいいのではない かと。そう思いついた時に鳥肌が立ったんですよ。そこから歌詞を書いていきました。母に宛てる曲って、感謝や優しい曲が多いと思うんですが、僕のお母さんの雰囲気ってちょっ とクールなんですよ。いつも前に出すぎず、何も言わずに少 し離れて僕を見ている雰囲気があったので、そういった母親像のイメージで書きました。そのイメージが曲と連動して、
これはやるしかないって思ったんです。よりいい曲にするために、ホームビデオを引っ張り出して色々観て歌詞を書きました。
ーホームビデオを観ていかがでしたか?
実家にあることは知っていたんですが、久しぶりにビデオを観て、色々思うことだらけでした。昔の映像を今の年齢で観ると、感じることも違うんですよね。例えば、意外と親父が親父業をしていたなとか(笑)
ー今だからこそわかることですよね。
そうですね。今あらためて見てそう思ったり、兄弟でこんなに仲が良かったんだとか、こんなにふざけたガキだったんだとか思いながら観ていました(笑)
ー子供の頃はやんちゃでしたか?
やんちゃでしたね(笑) ずっとふざけているんですよ。でも、エモかったですね。遊園地に行ったり、旅行をしたり、色んなホームビデオがあるんですが、たまたま観ていた映像の 中のお母さんが 34 歳だったりして、今の僕より年齢が下の時の映像なんですよね。そう思うと感慨深くて......。このタイ ミングで観られて良かったです。
ーホームビデオって、一番愛が溢れていますよね。
そうなんですよね。昔ホームビデオを観ている時は自分を見ているだけだったんですけど、この年齢で観ると、親が自分をどういう想いで撮っているのかを感じられてすごく嬉しか ったんです。
ー実際にこの曲は、お母様に聴かせたんですか?
いや、聴かせてはないです。聴かせることもないかなって思っていて(笑) 好きなタイミングで聴いてもらえたら嬉しい ですね。
ー感想が楽しみですね。
きっと聴いたら連絡はしてくれると思います。自分から「曲できたよ〜」っていうタイプではないんですけど......さすがにタイトル見たらわかりますよね(笑)
ーー最高な遠回しですね(笑)
あはは。「聴いて!」っていうのが苦手なんですよ。でも、聴いてもらいたくないわけではないんですけどね(笑)
ー先日リリースされた「辛」はタイトルから話題になりま した。それは狙い通りだったのですか?
そうですね。自分のことを応援してくださっている方以外の方に届くことは、共作した Chaki Zuluさんとの狙いでもあったので良かったですね。リリックで「この曲は何だ?」と思わせるのが狙いでもあったので、その狙い通りになれたなと思っています。それにこういう曲って、セッションをしないと生まれないんですよ。自分の脳みそだけでは絶対にたどり 着けなかったので感謝しています。それに、一度「辛」や「華金」など自分がやってこなかったことをやると、次に何かをするときにかなり幅が広がってトータル的にすごくいい挑戦になるので、すごく良かったなと思っています。
ーある意味、玉手箱ですよね。
まさに、ですね(笑)
COAT, SHIRT, PANTS, BRACELET, BELT, BOOTS by SAINT LAURENT BY ANTHONY VACCARELLO
ーでは、タイトルを『GOOD OLD FUTURE』にした理由を教えていただけますか?
この言葉は、造語で“古き良き未来”という意味があるんです。 そもそも“未来を生み出す”とか“素晴らしい未来にするために”と考えたときに、過去をリバイバルしないと新しいものが生まれないなって思っていて。そのうえで、音楽でいうと日本での聴かれ方が変わってきたり、色々トレンドがある中で、一度立ち返って自分の好きなものをやることが、また新しい未来に繋がるのかなって思ったんです。さらにコロナ禍 でライブで直接会うことの大切さを感じ、自分からファンの人に会いに行くというテーマでやっているからこそ、人間の
ありのままの姿、本来こうあるべきだって感じますし、過去に立ち返っていることでもあるし、それが素晴らしい未来に繋がるのかなって思うようになったんです。ファッションで も、先ほど話したようにビンテージデニムが好きなんですが、 世の中が便利になっていったとしても、過去のものの価値が上がっていると考えると、そういうものに立ち返るべきなんだろうなって感覚があるんですよね。そういった色んなことを踏まえて、今の今市隆二にはこのタイトルがピッタリだなって思い、このタイトルを付けました。
ーこのアルバムのどんなところに注目してほしいですか?
今回、本当に自分が好きなものを散りばめたんです。先ほど話した「Song For Mama」や「Star Seeker」では自分の想いを歌詞に落とし込んだり「Don’t Give Up」も素晴らしい歌詞を書いてもらったりと、本当に自分が好きなこと、さらに強いメッセージをこのアルバムの中に入れることができました。ジャケット自体も LP サイズにこだわったのは、レコードが大好きな想いを感じてもらいたかったからなんです。ジャケットだけで音楽を感じるものにしたかったんですよね。さらに、レザーを羽織り、タイトルの文字も音楽を感じる雰囲気に出来たので、すごくいい作品になったんじゃないかなと思います。あと、ピアノもずっと前から弾いているんです が、こうやってジャケットに載せたのは初めてなんですよ。
ーアートワークもかなり凝っています。
自分がやりたいこと、好きなもの、さらに自分らしいものを詰め込むことができました。そういえば、CP80というビンテージのピアノも買ったんですよ。
ーそれは載せなかったんですか?
載せませんでした。それは家にあります(笑) でも、最初は載せるイメージがあったんですよ。「CASTLE OF SAND」もピアノから入っていますし、MVでもピアノを弾いていますからね。でも、CP80の音色は、デジタルと弦がミックスした音なので特徴的なんです。なので、それを入れる曲ではないなと思いましたし、今回はクラシックピアノの音がフィッ トすると思ったんです。
ーなるほど。その音を知っている人が聴いたら違和感が出てしまいますからね。
そうなんです。なので、そこは合わせていきました。
ーそのこだわりも感じてもらいたいですね。さて、最近の プライベートでの心境の変化はありましたか?
僕はもともと趣味がなかったんですよ。そもそも別に趣味を見つける必要がないと思っていたんです。常に仕事である歌と音楽に対しての自分のスキルを上げることが大事だと思っ ていたんですよね。とはいえ、それを考えすぎていつもガチガチな自分がいたんです。でも、年数を重ねていくうちに、 メンバーの山下健二郎やNAOTOさんが趣味を楽しんでいる姿を見るようになって、それもいいなと思うようになったんです。2 人とも切り替えがすごく上手なんですよ。さらに、この 2 人は性格がすごく明るいんですよね。それってインプ ットとアウトプットができているからだと思うんです。なので僕も趣味をぜひ見つけなければと思っているんですが、なかなか見つからず......。
ー見つけてできるものでもないですしね。
そうなんですよね。あとは考え方的に、これまでは音楽への向き合い方にも余白がなかったんです。遊び心はゼロだった んですよ(笑)
ーストイック過ぎたんですね。
自分も疲れちゃうし、聴いている人や見ている人も疲れちゃうんだろうなって感じたんです。遊びがあった方が深みも出るし、トータル的にいいと思ったんですよね。そういう意味でも仕事への向き合い方も変わってきました。今ではビンテージにハマりましたし、その瞬間は仕事のことも忘れられるので、仕事に余裕を持てるようになりました。
ーメンバーの皆さんに対しての考え方、関係性はどう変化しましたか?
今年に入ってずっと個人活動をしているので、本当に会えていないんです。たまにグループの打ち合わせをするときに会うくらいで。でも、来年からグループ活動を始動するからこ そ、来年に向けて一度ちょっと飯を食っておいた方がいいなと思いプライベートで集まったんです。あとは、それぞれのソロツアーを観に行ったり、観に来てくれたり。そういうこ とくらいの接点はあるんですが、みんなが年齢を重ねて、それぞれのやりたいビジョンや人生のことを考えていますね。関係性は変わってないです。
ーメンバーはやはり特別な存在なんですね。
学生時代の友達や家族、メンバーってまた別の感覚で。誰かがやろうといって出来たグループでもないですし、たまたま集まった 7人が今こうしていられるのは、本当に運命的な出 会いだったと思うんです。それにこのバランスで7人が集まっているってすごいことなので、これからもこのメンバーのことを大切にしていきたいですね。
PHOTOGRAPHY : AKINORI ITO (AOSORA)
STYLING : YASUHIRO WATANABE (7B)
HAIR : GO UTSUGI (PARKS)
MAKEUP : MICHIKO FUNABIKI
INTERVIEW : KANA YOSHIDA
*このインタビューは2022年11月30日に発売されたVI/NYL #010のために実施されました。