#004-Night Tempo

#004-Night Tempo

Night Tempo

Instagram:@nighttempo

ヴェイパーウェイヴ、フューチャーファンク、また世界的なシティポップ再評価のムーヴメント、そして自身が標榜する「昭和グルーヴ」と、さまざまなジャンル/コンセプトのキーパーソンとして知られる韓国人プロデューサー兼DJ。オリジナル・アルバムはこれまで4タイトルをリリース。最新作『Ladies In The City』を通して彼の今を探る。

 

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ーNight Tempoさんは、かねてリミキサーとしてのコンセプトである「昭和グルーヴ」とアーティストとしての作風とは独立していると仰っていますが、今作については後者のモードでしょうか?

今作に関しては両方の面があって、昭和グルーヴ的な手法を含め、様々な音楽活動を積み重ねてきたことで、オリジナル楽曲でもそういった味を出せるようになったと思っています。それに、最近では「Night Tempo」という言葉が単なるアーティスト名ではなくジャンル名のように使われている場面を見聞きすることが多い。昭和グルーヴ、フューチャーファンク、シティポップ、それにレトロなアートワークや紐付いて想起されるファッションや映画、諸々のカルチャーを含め、そういう雰囲気全体を指して「Night Tempoっぽい」と言われる。自分の知らないうちにそうなっていって興味深く思っています。

 

ー今作の制作はどのように進めていったんでしょうか。

世界観を固めるところからはじめました。80年代末から90年代、そして00年代へと向かっていく時期の東京、ソウル、香港といった東アジアの都会で生活する女性たちをモチーフにしています。中でもメインのイメージソースは90年代前半の日本のトレンディドラマです。

 

ー今作のボーカリストはまさにトレンディドラマの時代を彩った歌い手から、近年デビューした若手まで幅広くフィーチャリングされています。

元々この人にやってもらえたらいいなと思っていた方をたまたまご紹介していただけたり、向こうからお話をいただけたりということが重なって、本当に運がよかったし、優しい方に恵まれたと思います。国分友里恵さんは近年のシティポップブームの中で再発見されている方。刀根麻理子さんはアルバムを作り始めた頃にハマっていて、ちょうど刀根さんのレアなカセットを手に入れた日にレーベルの方から「刀根麻理子さんって方、どうでしょうか」ってご紹介いただいて、何かの運命かなって思いました。野宮さんに関しては、野宮さんの方でも何か一緒にやってみたいというお話があったようで、僕も前々から考えていたことだったので「ぜひ!」と。

 

 

ーCrystal Teaさんは唯一韓国のアーティストですね。

元々SNSで繋がっていたんですが、彼女も日本の音楽が好きで、特に椎名林檎リスペクトなんですよ。以前からロックな歌声がいいなと思っていたので、今回一緒にやってみないかと声をかけて、今ではいい友達です。

 

ー意外だったのが山本彩さんです。高域でキープする難しい曲かと思うのですが、力強い歌唱がこれまでのイメージと違って聴こえました。

最初はちょっと負担が大きいかなと思ったんですが、「やります」っておっしゃっていただいたので、ちょっと無理をしていただきました。結果的にとてもいいものに仕上げてくさいました。この曲のイメージソースとしては、別の曲で参加してくださっているBONNIE PINKさん、あとはMISIAさん。少しJ-POPの色を付けた、クラシックスタイルのハウスミュージックというか。また、つんく♂さんやダンス☆マンさんの楽曲のような90sジャパニーズディスコ的なサウンドがとても好きで、今作でも影響を受けました。近年ではクラブミュージックのメインストリームにEDMが来て、日本の独自性は薄まってきたかもですが、日本人は基本的にディスコが好きだと思うんですよ。山下達郎さんの音楽にもそういったエッセンスが感じられるし、初期のSMAPなんかもそうですね。

 

ー今作でそういったディスコ感を取り入れた曲は?

道重さゆみさんに歌っていただいた曲。つんく♂さんの系譜にある曲を、モー娘。出身の道重さんに歌ってもらったわけで、感慨深かったです。あからさまにディスコ感を強調したわけではなく、パッと聴いただけではわかりづらいかもしれませんが、長く聴いてもらえるものにしたくて。

 

ーいかにもなディスコは少しコミカルに受け取られる可能性がありますが、そうならないバランス感に凄みを感じました。

今おっしゃった、ちょっとお笑いみたいな印象を抱かれることは僕自身意識しました。それって90年代末の社会の気運を反映していると思うんです。近代の歴史を勉強するのが好きで、日本の経済成長の流れや韓国社会との比較など、いろいろと調べてるんですよ。不況によってお金持ちがダメージを受け、それが社会全体に影響してムードが落ち込んだから、その空気を変えようということでディスコ調の明るい音楽が多く作られた、という動きがあったみたいです。そういった曲がよく売れるようになったことでどんどんエスカレートしていった結果、粗製濫造されるようになってしまったということはあると思います。でも日本のディスコサウンドって元々はファンキーでかっこよかったと思うんですよ。ちょっとだけアップデートすれば一気に今聴いても古く感じないものになるはず。なので、これからの活動でそういった音楽を紹介する、キュレーターとしての動きもしていくつもりです。

 

 

 

*このインタビューは2021年12月30日に発売されたVI/NYL #004のために実施されました。

*写真は全てアーティストからの提供です。

 

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