iri
Instagram:@i.gram.iri
ヒップホップ/R&Bマナーのビートとアップリフティングなダンストラックの上をシームレスに歌いこなすシンガー・ソングライター。2016年ビクターよりメジャーデビューし、iTunes Storeでトップ10入り、ヒップホップ/ラップチャートでは1位を獲得。翌年にはNikeのキャンペーンソングを手掛け話題となる。ChloeやVALENTINOなどハイブランドのパーティーでライブするなど多方面から注目される気鋭女性アーティスト。近年フランスのフェスや中国でツアーを開催するなど海外でのライブにも出演。
先日リリースされたベストアルバム『2016-2020』でデビューからの5年間を総括したiri。ナチュラルボーンな一人のシンガー・ソングライターが、プロのアーティストとして醸成していく希望と葛藤、迷いながらもリアルであろうとする姿勢。それらが楽曲として形作られながらも、奥底に眠っていた心情を聞かせてもらった。
ー個人的にはプロデビューのきっかけとなった、ファッション誌NYLON JAPANとSony Musicとのオーディション(※2014年開催、iriはグランプリを獲得)の時から拝見しているのですが、あの時が最初のオーディションだったのでしょうか?
いや、実は中学生の時にも一回受けたことあったんです。まだボイスレッスンも曲作りとかも全然してない頃で、ただ歌いたいって気持ちだけでした。
ーその頃から歌いたいという気持ちが強かったのでしょうか。
そうですね。もともと小学校くらいから目立ちたいという願望はあったんですが、その反面内気でシャイだし人前に立つのも苦手でした。でもハングリー精神みたいなのはずっとあったから、NYLONのオーディションを受けた時も、それ(音楽)しか自分はできないと思ってたし、そこに賭けてた部分はありましたね。
ー目立ちたい気持ちと本来の内気な性格とのギャップがあった?
今も根っこは内気です。小学生の時に支えてもらったスクールカウンセラーの先生みたいに、誰かに寄り添える仕事がしたいと思っていて、Alicia Keysだったり、Jennifer Hudsonだったり、Beyoncéみたいに歌で人を感動させる存在に自分はなりたいと思ったので、足を踏み入れようという決意はありました。ただ、そこに自信はなかったです。自信はなかったけど、やりたいっていう気持ちの方がすごく強かったです。
ーオーディションでグランプリを勝ち取って、メジャーデビューまで2年。この『2016-2020』以前はどういった心持ちでした?
受かったは良いものの、引き出しもないし、知識もないし、何もない状態で歌声だけはある、みたいな感じでした。伝えたい何かはあるという状態だったので、どう消化していいのかわからなかったですね。
ーそれまでは自然に一人で歌っていたのが、他の人と一緒に音楽を作るという状況に。その戸惑いもありましたか?
ありましたね。そもそも初対面の人と何かを作ることもない状態で、初めましてのトラックメイカーさん達と一緒に作るというのが難しくて、しかもシャイなので。出来上がりの過程の中で「何か違う」みたいに思ったりもしたのですが、後悔していることは1つもないですね。そのチャレンジがなかったら今の私はないと思いますし。
ーそういった葛藤を経て、2016年に1stアルバム『Groove It』でメジャーデビュー。もともとのメンタリティーとして内気だと、どんどん目立っていくという矛盾は消化できていましたか?
いや、それは今もまだできてないです。もうずっと付き合っていくんだろうなって思いますね。
ーそれらを歌という表現で消化しきれているわけでもなかった?
そこで真っすぐ表現することが上手いアウトプット上手な人もいれば、内なる“その何か”は出てるんだけど、表現が恥ずかしくてもどかしいながらも爆発させるっていう2タイプがいると思うんです。私は後者のタイプの人間だと思います。そのギャップは育ってきた環境とか、もともとの自分の性格みたいなものもあると思います。表面上に出すのは苦手だけど、内に秘めた何かを持っているっていうのをファンの人がちゃんとわかってくれていて、そういうところを見てくれる人が共感して付いてきてくれてるんだろうなって思いますね。
ー一人で弾き語りをしていた頃から、他の人と共作するプロのプロセスを知り、「Corner」や「Shade」の時期に入っていくわけですよね。
自分の原点的には、悲しいことがあってもそれを歌にして解消していくっていうのが、歌を作るということの始まりだから、それを押し殺して「イェー!」みたいになるのが難しかったんです。オケがアッパーになっても歌詞がどうしてもそうならない。歌ってても自分の中で違和感になってきて、「Shade」を出す時には、サウンド的に無理にアゲなくて良いって思ったんです。そういうのを気にしてなくていいって。
ー自分にとっての歌を大切にしたいと。聴き手にとっての歌ではなくて。
そうですね、そうそうそうそう。
ーそれが結果的にリスナーを支えている部分はあると思います。ごくパーソナルで日常のままでいてくれることに救われるというか。
例えば、私の曲が大ヒットしましたとなって、環境がガラッと変わったとしても、自分は絶対日常にいたいなって思っています。別に大きな家とか住まないし、電車で通勤するし、みたいな。本当にみんなが体験している日常をしっかり変わらずに続けて、そこに馴染む作品をちゃんと創りたいし、みんなと同じ気持ちでいたいし、というのはめちゃくちゃ強いですね。
ー「Sparkle」の頃にはその辺りのバランスがすごく良くなっていますよね。良いチーム感も醸成されていっているように感じました。
気付き出したんですよね。ジャケもMVも含めそうなんですけど、中途半端はいりませんっていうメンタルになってきて、それがちゃんと繋がったときに良い作品ができるんだと思います。それをすごく思うようになったかな。なんかたぶんずっと、曲を作るっていうことが楽しいって感覚を忘れそうになるタイミングが何回もあって、売れるためとか、目的なんだっけっていう時期が結構続いて、それで何やってるのか自分でもよくわからないようになってきた期間がありました。アコースティックな弾き語りのiriを求めている人もいれば、ダンストラックな曲を求めてる人もいれば、ジャジーなのを求めてる人もいるし、ポップスを求めてる人もいるとか。みんなの求めてるものに、自分が付いていくみたいなことをやっていたら、何やるんだっけ? みたいになって、自分の中でも色々見直したんです。まず「何をやりたいか」を見つめ直して、「やりたいことやらせてください」って。それを周りのスタッフさんも信じてくれるようになった。それが大きいですね。だから、求められていることをやるのはやめようって一回「Sparkle」ではなったんです。結果、意外といい作品になったじゃん! となって、じゃあ別に求められているとか考えなくていいんじゃないかなって。
ーアルバムとしてはここまでの5年をパッケージしているわけですが、この後「はじまりの日」や「渦」も発表されています。コロナ禍を経験した心境なども聞かせていただけますか?
私、この時期に実家を出て一人暮らしを始めたんです。それで一人で考える時間がすごい増えて、スタッフのみんなにも会えなかったし、ライブもなくなってファンのみんなにも会えなくなって寂しいっていうのがあって……それで一回立ち止まったというか、一回無になって、ギターを持って本当にゆっくりと歌い始めたのが「はじまりの日」です。サウンドも迷いましたが、プライベートのこととかも結構話しているTAAR君が色々感じ取ってくれて「なるべく引き算で作っていきたい」って伝えたんです。あの形になった時に「あ、これだ」ってなって。なんかやっとまた戻ってこれたみたいな感覚になりましたね。けど、なんだかんだ体がまだ追いついてこなくて、落ちていく一方だなって思ったから、外側から自分を応援してあげよ、みたいな気持ちになって、それがみんなの応援というか、支える曲にもなればいいなっていう思いで、コロナ禍の状況も含めて「渦」を書きました。「自分応援しよ」みたいな(笑)
ー結局今も昔も、表現方法に悩みながらも自分を励ますことがファンを励ますことに繋がっているということですよね。支え合う存在というか。
そうそう。それがたぶん自分の中で音楽って素晴らしいなって思う部分です。等身大で書いてて良かったんだなって思う瞬間だし、自分がリアルに落とし込んだものだから共感をしてもらえるんだろうなって。「会いたいわ」でもそうなんですけど、人それぞれの違った思い出と共鳴していくんですよね。それにまた救われるから、YouTubeのコメントとかもめっちゃ見るんですよ(笑)。「はじまりの日」も、私はあのタイミング(※2021年3月発表)で絶対出したくて、あの時出せて本当に良かったと思ってます。コロナ禍で家族を失くした人もいれば、友達を失くした人もいるし、自ら命を絶つ人もいたし、周りもすごい悩んでた。あのEPは自分の中で死生観と向き合った一枚です。身近にいる家族やスタッフさんもそうだし、関わる人たちや自分も含めていつどうなるかわからないってすごく痛感したし、それをみんなも同じように、あの曲を聴いて感じてくれてた。「改めて周りの人を大切にしよう」と思ったっていう人がいたり。温かい気持ちになってくれて、そのカウンセリング的なことも含めてあの曲を通して伝えられたらなって思っていました。それが実際に伝わったんだなっていうのは実感するから、なんかすごく正解だったなって。
ーでは改めて、この5年を自分なりに振り返るとどういった時期でしたか?
プロのミュージシャンになるための土台を作った5年間って感じかな。なんかやっとスタート地点に立ちましたって感じですね。
ーでは次なる5年はどんなイメージ? どうなっていそうですか?
何が起きるかわかんないですねー(笑)。 でも、アーティストではない部分での自分自身のことがここ数年で少しずつわかってきたし、それを知ることがすごく大事であることもわかりました。いろんなことが鮮明になってくるんだろうなって思います。無駄なものも省かれていくだろうし、だからまぁ楽しみですかね。5年後もまた同じように「スタート地点に立てました」って言う気がします。本当に少しずつ、焦らないようにしようと思っていて、改めて「rhythm」という曲が表現してるなって。この曲が一番軸になっていて、本当に“私は私のリズムで”っていうのがずっとテーマになっているなと思います。自分自身の人生のテーマでもあるし、歌手人生のテーマでもある。そこが乱れた時に全部ダメになるから、大事にまた5年進んでいきます。
PHOTOGRAPHY : TAKUYA NAGAMINE
STYLING : MASATAKA HATTORI
HAIR & MAKEUP : MIHOKO FUJIWARA (LUCK HAIR)
INTERVIEW : SADANORI UTSUNOMIYA
掲載号:VI/NYL#002(2021年12月30日発売)
■VI/NYL