#006-SASAMI

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Instagram:@sasamiashworth

 

カリフォルニア州出身、インディ・ポップバンドCherry Glazerr(現在は脱退)のキーボーディスト/シンガーソングライター、ササミ・アシュワースのソロ名義。NYのイーストマン音楽学校卒、小学校の音楽教師を務めるなどアカデミックな背景を持ち、ピアノ、ギター、パーカッションなどマルチプレイヤーでもある。本年最新アルバム『SQUEEZE』をDominoよりリリース。

 

   


 

 

ー幼少期はどんな子供でしたか?

ふざけてばっかりいる子。かなりおバカだったと思う。いたずらっ子っていう感じでもなくてただただふざけてるみたいな。面白キャラというか。恥ずかしがり屋じゃなかったのは確かね。

 

ーそのキャラクターは今も変わらないですか?

そうね(笑)。おちゃらけるところはあんまり変わってないと思う。今は、自分で稼いだお金を持ってる子供って感じ。

 

ー幼い頃の自分にアドバイスするなら?

まず携帯電話を取り上げて、代わりに棒切れを渡すかな(笑)。アドバイスをするならやっぱりギター(を演奏すること)かな。子供の頃フレンチホルンをやってて、それ自体はすごく良かったと思ってるけどね。クラシック音楽を勉強してオーケストラで演奏したり、私という人間、私というミュージシャンを形成する上でとても役に立ったと思うし。でも、もっと早くからギターを始めていたら、もう少し指が強くなっていたかもしれないなと思う。

 

 

 

ーCherry Glazerr時代と今では音楽と向き合う感覚は違いますか?

ある意味では楽になったし、別の意味では大変になったかな。何かしたいと思ったときに何人もの人の賛同を得なくてもいいというか、お金を使わせてもらうためにマネージメントやレーベルを説得するだけでいいっていう。ただコラボレーションはやっぱり恋しくて。バンドをやっているとパワーレンジャーか何かになったような気分になるというか、散らばっていたメンバーが集まると、一つの大きな力を発揮するみたいな。一緒にいる人たちに支えられている感じがすごくあった。ある意味無敵の気分だった。それはすごく懐かしい。

 

ーパンデミックは創作活動に影響を与えましたか?

私はあの期間が永遠に続いているように感じて、すごく長くて、たくさんの浮き沈みがあって、色々な意味ですごく貴重な時間だったと思ってて。私自身こんなに長い間LAにいたことがなかったし。だから、それだけ長時間集中できたってこと自体が刺激になったというか。さらにアメリカでは、大きなデモや抗議運動があった。ここに住む全ての人にとってより平等な国を作るために、教育に力を入れたり、自分たちの世代がどうすればいいのか考えることが文化的にとても重要な時期だった。パンデミックの一時期、私は自分自身や自分の経験について語ることが適切とは思えなくなってて。それよりも他の人の話を聞くことが大事だって思って、だからあまり作品を作らない時期があったの。それから、誰にでもその人なりの、人類に貢献する方法があるってことに気付いたというか。結局はポジティブなエネルギーもネガティブなエネルギーもたっぷり注いでベストを尽くすことしかできないんだなって。あらゆることは恣意的で、すべてが作り物で、人間は全部でっち上げるから。だから自分の内なるコンパスを信じるしかないんだと思った。それであるとき気付いたのが、音楽を作ることが自分にとって最も良い行いができて、最も多くの人々と繋がることができる最も効率的な方法だってこと。私のミュージシャンとしての仕事は、人々のエモーショナルな経験を手助けすることだと。怒りたくなったらヘビー・ミュージックを聴くとか、すごく悲しい気持ちを整理するために聴く音楽とか、それがアーティストとしての役割というか。そういう自分の目的に改めて繋がれたのが2020年後半くらいで。そういう感じでとにかく1年がものすごく長かった。アルバムも3枚作ったし。自分のアルバムと、2人のルームメイト、Kyle ThomasのKing Tuffのアルバムと、もう1人のHand Habitsのアルバムとね。

 

ー最新アルバム『SQUEEZE』は楽曲のみならずアートワークでも多彩なゲストを招いています。特にAndrew Thomas Huangとの共作のいきさつを教えてください。

SNSって色んな意味で邪悪だったり雑音だったり有毒だったりするけど、たまにネット上で出会って本物の関係に発展することがあって……そういうわけでAndyとはInstagramで知り合って、お互いにロサンゼルスのサウスベイっていう地域出身のアジア系だったらすぐに友達になって、好きなものも似てて。例えば妖怪とか龍とか、中国版の妖怪みたいな幽霊キャラとか、そういうファンタジーのところで繋がって。それで彼が私のファンタジーっぽいアイデアを視覚化するのを助けてくれたという。FKA twigsとかBjörkとかPerfume Geniusとか……もともと彼の作品が大好きだったから嬉しかったわ。

 

ービジュアルで日本の妖怪をモチーフにした理由は?

“濡女”の話にすごくインスパイアされたの。めちゃくちゃかっこいいと思って。すごく美しくてすごく暴力的で、そういう組み合わせが好きだから。あと私は6月生まれで蟹座だから水のイメージだったり水に関係するキャラクターにすごく興味があって、彼女も水の精みたいなキャラクターだからすごく惹かれるものがあった。あとやっぱり私はメタルにかなり影響を受けてるんだけど、メタルってほとんど白人男性が作ってて歌詞がすごい暴力的で、女性を傷つけるようなことを言ってたりする。だから私は、被害者じゃない女性像、もっと攻撃的な、女性が支配するイメージを生み出したかった。それで濡女の話を知って超かっこいいと思ったの。

 

 

ー実験的かつジャンル幅の広いサウンドメイクですが、今後も積極的に変化、拡張する予定ですか? その上で今気になっているジャンル/サウンドはありますか?

その時々で刺激を受けたものに付いていこうと思っていて、今は結構Joni Mitchellの影響が感じられるような、アコースティックでフォーキーな曲を書いてる。でもそれは変わり続けると思う。

 

ー歌詞はどういう時に出てきますか? それをどう楽曲に昇華していくのでしょう?

その時によるかな。ファーストアルバムの時はもう秒で出てくる感じで、日記のようなものとして曲を書いてて、節操なく何でも自分が思ったことをありのまま書いた。でも今作は、より意図的にメッセージを伝えようとした。今書いている次の作品は、愛情が冷めていく相手としてロサンゼルスを擬人化して、ロサンゼルスに向かって歌いかけるみたいな……という感じでアルバムごとに違ったストーリー、違った感情があるんだよね。

 

ー普段どんな環境や機材で音楽を作っていますか?

ギターを使うことも多いし、デモを作る時はiPadを使うことが多くて、あとスマホに録音することも多い。いつでもパッと魚を釣れるようにね。大きい機材って、魚がそこにいるのに、木を切り倒して削って竿を作るみたいな感じで、用意できた頃には魚は逃げちゃってるから。あとレコーディングはアナログ機材が多い。

 

ー影響を受けた作品は?

大きな影響を受けてるのはSystem of a Downで、すごくヘビーなんだけど、すごくふざけたり、すごく政治的だったり、乱雑なところが好き。気取ってなくて、ヘンテコで、面白くて、芝居がかってて、彼らの音楽には本当に刺激を受ける。あと濡女は『修羅雪姫』って映画の影響を受けてて。暴力的な女性キャラクターってところと、かっこいいところ。

 

ー初めて聴くリスナーに自分の曲の中で一曲を紹介するなら? その理由も教えてください。

まずその人に今日はどんな気分かを聞いて、その答えによって曲を選ぶと思う。

 

ー例えば悲しい気分だって答えたら?

「Not a Love Song」とか「The Greatest」とか、そういうちょっとゆっくりめの、ドロっとした、エモーショナルな感じの曲かな。もっとハッピーな気分でちょっとワインでも飲もうかなっていう人には「Tried To Understand」とか「Make It Right」とか、もうちょっとアップビートな曲。駐車違反の切符を切られたとか路上喫煙で罰金取られたとかいう人には「Skin A Rat」とか「Sorry Entertainer」とかね。

 

 

ー今特に気になっている社会問題はありますか?

前々からアメリカの先住民の問題はすごく関心を持ってるし実際関わってきた。なぜなら先住民大虐殺というのはアメリカ史上最も古くて極端な暴力の一例だから。可能なかぎり多くを学びたいと思っているし、相互扶助的なプロジェクトと提携してツアー先で募金活動をしたりしてて。たださっきも言ったように、自分の仕事はあくまで人々が感情のカタルシスを得る機会を作ることだと思ってるから、なぜ人がある感情を抱くのかを考えるよりも、自分が届けるべきものをいかに届けるかを考えたい。

 

ー音楽の存在意義はズバリ何だと思いますか?

音楽は人々が感情を抱くためのきっかけとして存在してると思う。シェフが料理をしてそれを食べた人が旨味を感じるとか、しょっぱい、甘い、辛いと感じたり、衝撃を受けたり、あるいはただ純粋に栄養を摂取したり。つまり誰かのために経験を作っている。アーティストもそれと全く同じで、誰かが何か経験するのを手助けしているんじゃないかと。それは時には偶発的で、例えば私の前作は、ただ自分がそれを作る必要があったから作ったんだけど、たまたま他の人がそれを聴いて何かを経験した。だから何だろう……人間て本質的にはすごく似通っていて、私が自分の経験について語ったことが多くの人に響いたのも、たぶん似てるからで。みんな傷付いた経験があったり欲情したりするっていう(笑)。でも今作みたいに、リアクションを生み出すために作る場合もあるしね。それぞれのアーティストが色んな目的でアートを作っていて、David Lynchが「アイデアは魚みたいなものだ」的なことを言っていて、魚が一匹釣れると他の魚が何事かと思って寄ってくるみたいな、アイデアもある意味そういうものかもしれない。宇宙に散らばっているアイデアをつかんでそれを創造したいと思って、それは自分とは関係なくて、より大きなもののために自分の体を容器として使うみたいな。とにかくアーティストによって創造する目的は違うと思うし、一人のアーティストの一生のうちでも変わることがある。でも究極的には、何らかの形で感情や反応を引き出すためにあると思う。

 

ー次の活動・リリース予定を教えてください。

Mitskiとのヨーロッパーツアーがあって、HAIMとのUSツアーがあって、会場も大きいところが多くて、ツアーが始まる頃にはアルバムも発売されてるから、曲を知ってる人もいるかもしれないし、とにかく今はそれがすごく楽しみ!

 

 

INTERVIEW : SADANORI UTSUNOMIYA

*このインタビューは2022年5月14日に発売されたVI/NYL #006のために実施されました。

*写真は全てアーティストからの提供です。

 

■VI/NYL