MAH(SiM)
Instagram:@mahfromsim
湘南発、レゲエパンク・バンドSiMのボーカル。ハードコア・パンクやニュー・メタルの轟音性に、レゲエやスカのサウンドを取り入れる。レベルミュージックとしての反骨精神をキープしながら、キャッチーさも忘れない日本的ローカライズが絶妙なバランス。MAHのカリスマ性ある悪魔的ステージングは強烈。先日発表された『進撃の巨人』OPテーマ「The Rumbling」は米ビルボードチャート1位を記録、本年6月には12回目となる主催フェス『DEAD POP FESTiVAL』を開催。
Kamui
Instagram:@kamui_3_i
2016年〜2018年まで、ヒップホップ・ユニットTENG GANG STARRとして活動、MIYACHIやWILYWNKAなどとのコラボ楽曲も話題に。ソロとしてはkamui x u..名義で『Yandel City』を2016年にリリース。2020年末には『YC2』をリリース、本年DX版『YC2.5』をリリースすべくクラファンを達成。Mondo Grossoともコラボするなど業界内外からの支持も高い。サイバー・パンク×エモ・ラップという独自の世界観を表現、その真価はアップデートし続けるリアルラッパーとしての強いアティチュードだ。
VI/NYLスペシャルセッション、バックカバーは、「CATCH ME」で共演したシーンの兄貴分、レゲエパンクバンドSiMのボーカルMAHとの対談からスタート。人生の大事なポイントで交わる、運命的な接点も聞かせてもらった。
ーお二人の関係性から伺います。拓也さんはMAHさんのことを“上京してからのお兄ちゃん的存在”とよくおっしゃってるんですけど、具体的に交流が始まったきっかけはいつ頃ですか?
TAKUYA たぶん2014年辺りの『RUSH BALL』(※毎夏、大阪で開催されるビッグフェス)ですね。俺らが東京に出てきたタイミングだった気がするので。
MAH 初めて一緒に『RUSH BALL』に出てるんだよね。
ーその時MAHさんから見て、拓也さんはどういう印象でした?
MAH その前に挨拶してくれてたんで知ってはいたんですけど、まぁ別にあんまり興味は……。
TAKUYA マジでそんな感じでした(笑)
ーそこから関係性が深まるのに、何かきっかけはありましたか?
TAKUYA なんでだったのかそんなに覚えてないですけど『RUSH BALL』で一緒になるまで、会う度に挨拶には行ってたんです。でも、「ウイッス……」みたいな。
ー興味なさそうな感じ?
TAKUYA そうそう(笑) 怖ぇーって感じだったんですけど、『RUSH BALL』の打ち上げで初めてちゃんとMAHさんとしゃべって。終わってすぐくらいに「飯行こうよ」って誘ってくれて、東京戻ってから飯に連れて行ってもらったんです。そこからですね。
ーそれってMAHさんとしては珍しいことというか、誰でも誘うタイプではないですよね?
MAH ないっすね。
ーそれは感覚的に何か感じるものがあったんですか?
MAH なんだろう。やっぱ若いロックバンドってどんどん出てくるので、みんな一緒に見えるんですよね。個性的な音とか見た目のバンドって、正直あんまいないので。で、『RUSH BALL』で(オーラルの)ライブを見て、意外と男らしいライブするんだなって。ロックバンド界隈の若い子ってちょっとなよっとしたライブをする子が多いので。それで結構見方が変わって、ちょうど「飯行きたいです」みたいな話もしてくれてたんで、タイミングで。しかもなんか当時、(拓也は)すごい悩んでたんだよね?
TAKUYA そう、めっちゃ悩んでた。
MAH 今後どうしていくか、みたいな部分で。それに対して、ちょっとだけ先輩として色々しゃべったっていう感じですかね。
ー初見の印象とライブを観た印象は結構違ったんですか?
MAH 全然違いましたね。(拓也は)しゃべり方も柔らかいじゃないですか。だからライブ見て印象変わったっすね。
ーもちろん相談に乗ろうというところはありつつ、普通にこの世代の話も聞いてみたいなという気持ちもありました?
MAH そうですね。そんなに仲良い後輩バンドも俺いないんで、なんか色々知りたいとは思ったっすね。
ー拓也さんからの目線で言うと、ステージを見てるのとしゃべってからではMAHさんの印象に違いはありました?
TAKUYA 俺は、音楽性ももちろん重視するんですけど、ステージを見て人としてのカリスマ性を感じてからバンドを好きになることが多いので。SiMはそれの典型だった感じですね。そこで、やっぱり「この人としゃべってみたい」「この人と一緒にいたら、自分も触発されてもっとボーカリストとしてレベルアップできるんじゃないかな」みたいな思いもあって。そこは、実際会う前としゃべった後も印象は全然変わらなかったし、「やっぱりこの人かっこいい!」って感じでしたね。そういう意味で“ブレないかっこよさ”みたいなものが、自分にはその当時めちゃめちゃ欲しかったものだったから。そこで「この先輩に付いて行こう!」みたいなのはすごい感じました。
ーそういう意味では、MAHさんに憧れる後輩はたくさんいるでしょうし、同じように追いかけてくる人もいたと思うんです。でも、きっとMAHさんは同じスタンスで、「ウイッス……」と返していたんだと思うんですね。そういうハードルを拓也さんは折れずに超えたわけじゃないですか? その熱量は感じました?
MAH まぁでもやっぱ、色々運が重なってると思うんですよ。そういうのが積み重なった中で、同じフェスに出て、ちょうど楽屋からオーラルのライブが見やすい環境でもあって。そういう巡り合わせってたぶんあるので。例えば2日間開催のフェスでいっつも違う日だったりとか。そういう運もあるんじゃないすか、やっぱ。
ー一方で拓也さんは、冷たくされても折れない的な気持ちはありました?
TAKUYA そうですね。「絶対に振り向いてほしい」みたいな、なんか変な意地はありました。
ー想像するに『RUSH BALL』初共演以前も、そういう時期があったのでは?
MAH 最初のタイミングは、デビューの時でしょ?
TAKUYA そう、デビューの時。キャンペーンがたまたま一緒で。SiMが行ったラジオ局に、俺らが行くっていう偶然が一番最初にあったんです。そこで挨拶だけはしてたって感じでしたね。
MAH そっから『RUSH BALL』まで結構あったのかな?
TAKUYA 1年くらいありました。その期間は追いかけてましたね。
ー実際MAHさんは、後輩となかなかじっくり話す機会がない中で、拓也さんがきっかけで世代を超えて話すことになったと思うんですけど、パンクやロックの考え方や、アーティストとしての感覚の部分で世代間ギャップは感じましたか?
MAH 拓也を見てて、ちょっと面白い企画をやったりするアイデアとか、服とかデザインにすごい気を遣うとか、そういう感覚は新世代だなという気がしましたけどね。フロントマンの立ち居振る舞いとして、やっぱ新しいなって。俺らの一個前の先輩たちは“かっこつけるのがダサい”っていう世代だったんですよ。直接言われたこともあるんすけど、俺がステージ上でビシッとポージングとかするのを「それ照れ臭くないの?」って言われたりとか。けど俺ら世代はそういうのをかっこいいと思って、Crossfaithとかcoldrainとか、みんなステージ上ではかっこつけるものだっていうのを堂々とできる世代で。そのさらに先というか、アートという感覚を拓也はすごい持ち合わせていて。俺らにはちょっと真似できないかもなと思ってますけど。
ーそういう意味では、MAHさんとしても得るものが多かったんですかね。
MAH そうですね。でもほんとにすごいなと思う。自分だったらできないなと。
ー逆に、拓也さんは上の世代、特にSiMのスタイルはどう感じていたんですか?
TAKUYA 「同じことしても勝てないな」みたいなのが正直あったんですよね。男らしさみたいなところも含めて、俺らより上の先輩ってライブがめちゃめちゃ強くて。オーラルとしても、1、2年くらいラウド系だったりメロコア系の先輩たちと対バンする期間を作った時があったんですよ。その時にライブの強さや個々の強さをめちゃめちゃ感じて。同じ土俵で、同じようにしてても勝てないなって。SiMの世界観もそうですし。でも、自分はありがたいことにSiM含めそういう先輩にかわいがってもらってるので、そこはすごい特権な気がしてて。その先輩のいい部分を自分たちの感覚とどうミックスしていくか、ということを研究したことで独自のスタイルが出来上がっていきましたね。
ーかなわない、とはっきり感じたからこそ、アート感だったり多角的な表現のアイデアも生まれていったわけですね。
TAKUYA めっちゃありますね、何で戦おう? みたいな。
ースタイルという意味では、例えば英語詞、日本語詞に対するこだわりもそれぞれあると思います。今回のコラボ曲「CATCH ME」では、結果的にMAHさんはすごく久しぶりに日本語で歌うことになったと思いますが、その辺りはどうお考えですか?
MAH 自分が基本的に英語で歌っているのは、育った環境がそうだし自分の根っこでもあるんで、すごい自然にやっているんです。でも逆に、いつでも日本語の歌詞は書きたいと思ってるんですよ。ただ自分の中では難しいんですよね、日本語の方が。日本語だと一つのことを伝えるのに言い回しがたくさんありすぎて。でも英語だと3種類くらいしか言い方がないということの方が多いので、3種類の意味に捉えられるみたいなところもあって面白いし簡単なんですよ。だから日本語の方が自分はハードルが高くて。で、今回オーラルの曲をやるってなった時に、当然日本語で歌うんだろうなってわかってたし、別にそこに違和感はなかったんですけど、拓也の歌い回しは独特なんすよね。自分が歌った時、もっとストレートに歌っちゃうっていうか、ウェットに歌えないんで、僕は。そこが合うのかなっていう不安はちょっとあったけど、実際やってみたらすごいピッタリだった。まぁでも、歌詞の書き方は全然違うんだろうなと思いましたね。俺が書く日本語とも全然違うし「どうやってやってるのかな?」とか「どういう意味なんだろう?」とかすごく考えましたね。
ー実際にレコーディングしてみて、お互いの印象はどんな感じでしたか?
TAKUYA めっちゃ勉強になりました、俺は。
MAH そう?
TAKUYA ポイントでマイクを変えるのとか「こういう風に録ってたんだ?」みたいな。歌い回しとかも、やっぱ自分の曲って自分の声でしか再生されてなかったので、SiMみたいなスタイルの音楽をやってる人が、俺らの曲を歌ってるのを聞いて「こういう歌い回しもかっけー!」みたいなのはめちゃめちゃ勉強になって、俺はやっててめっちゃ楽しかったです。あと、俺がMAHさんに丸投げしてた頭の部分のところがあったんですけど、それは「こういうのを入れてほしい」みたいなニュアンスで丸投げしてて。そこの回答としてMAHさんが歌った時のテンションの爆上がり感やばかったです。
ーイントロのあれは食らっちゃいますよね。
TAKUYA しかもSiM要素もすごくあったので、まずかっけえ! みたいな。パワーアップするわこれ! という感じで、めちゃめちゃワクワクした。
ーそういう意味では、お互いコーディングまではどうなるかわからなかったんですか?
MAH どういう風に歌うかは、当日まで全く言ってなかったので。自分で家で仮レコーディングみたいなのはしてたんですけど、それも別に聴かせてないので。ここはどういうテンションで歌うよとかも言ってなかったから。まあ、大丈夫かな? と思いながら歌ってたんですけど。
TAKUYA 全然わからなかったからこそ食らいましたね。めっちゃ面白かった。
ーこういう楽曲単位でのセッションって今後もあり得そうですか?
TAKUYA どうなんですかね、俺は今回コラボをやることで、自分の身の回りの整理って言ったら言い方変なんですけど、やっぱりこの人とは一緒にいたいとか、この人と人生歩みたいという気持ちがかなりあったので。そういう意味で、今回はこういう形でやれたというのはきっかけだったと思うし、そのきっかけって生きていく中で今後もあるかもしれないし、ないかもしれない。タイミングがあって、そこがバチッとハマればやるんだろうな、みたいな気がします。
ーMAHさんもそれくらいの感覚ですか? 流れや運もあると思いますが。
MAH そうっすね。やっぱりお互い忙しい中で、ここだったらいけるよみたいなのが合わないとやっぱり無理なんですよね。実際、今回みたいなコラボの依頼もらって、断ったのもほんとたくさんあるんで。だから、それはもう巡り合わせですよね。
ーやっぱり当初からオーラルとSiMは巡り合わせが強いんだと思います。MAHさんが『RUSH BALL』でオーラルのライブを観られたのも、今回のコラボが実現したのも含めて、色々とタイミングが合う運命だった気がします。
TAKUYA 俺は合わせてくれてると思っていたんですよね、MAHさんがずっと。俺の大事なタイミングで毎回MAHさんが一緒にいてくれているので。普通の友達みたいに、毎日会ってるわけではないけど、大事なタイミングではいるんですよ。(2014年〜2015年頃)声帯ポリープができて、その手術前もMAHさんが「手術頑張っておいでよ」って壮行会みたいなのもやってくれたし、俺らがCDの売り上げ伸び悩んだ時も、MAHさんにアドバイスをもらったりとか。
MAH マキシマム ザ ホルモンがオーラルのツアーで出演キャンセルになった時も、なぜか俺に連絡あったよね(笑) どうしたらいいですか? って。それは自分で考えろよ、俺関係ない(笑)
TAKUYA マジでもうわからなくなったら、自分でわからないことはMAHさんに聞こう! みたいな(笑)
ー人生の節目節目でタイミングが合ってアドバイスももらっていて。改めてMAHさんは“お兄ちゃん的存在”だと思いますか?
TAKUYA もう完全にそうですね。MAHさんと飯とか行ってたりしてなかったらと思うと......東京で居場所をつくってくれたのはMAHさんだったので。色々紹介してくれて。だから、めちゃめちゃ大事なときに助けてくれる先輩というのが、マジで兄ちゃんみたいだなとずっと思っています。
ーMAHさんにとってはいかがですか?
MAH 僕、親しい友達少ないんで。例えば知らない後輩が挨拶しに来ても、CDとかもらうし挨拶もちゃんとするけど、その先もう1回、2回、3回って来るっていうのはない。
ー心折れずにハードルを超えてきてくれた感じですよね。
MAH そういう人しか受け入れないというか。業務的な挨拶だけで終わるんだったら、別にプライベートとか関わらないようにしてるし。その線を超えてきてくれるやつは、めちゃくちゃあったかく迎えるみたいな感じで生きてきているので。だから、拓也はその一人だったし。そういう人には、自分が知っているほっとする場所とかは、やっぱり共有してあげたいし、そう思える数少ない一人なので。
ーMAHさんから今の拓也さんに対するアドバイスはありますか? 好き勝手やれる時期もあれば、お客さんのことを意識してやる時期もあり、バンドもそれぞれ色んなフェーズがあると思いますが。
MAH どうなんだろうな。とにかくやっぱ自分らでも言ってるけど、オーラルは“キラーチューン”をめちゃくちゃ作っているイメージが俺もあって。その先を見たいなとは思いますね、希望として。なんか、もっとお客さん受けとか関係なく。
ーそういう対外的な印象を全部取っ払ったやつですね。
MAH 俺らは尖ったジャンルなんで、最初は全然振り向いてもらえなくて。それでも全員倒してやる! ってライブしまくって、目の前に現れるやつを片っ端から倒し続けていたら、みんな倒し終わっちゃってた、みたいな。ふと見回すと立ってるの俺だけだった、っていう感覚が一回あって。その時に同時に目標を失っちゃったんですよ。次は誰を倒せばいいんだ? って。拓也ももうそれを感じているか、まだだとしてもいつか必ずそのタイミングが来るので、そこで何をしようと思うかがすごく大事で。その先に行けた時に、たぶん先輩たち=マキシマム ザ ホルモンとかBRAHMANみたいな貫禄が出てくると思うんすよね。今はギラギラしながら山を登ってるけど、いざ頂上に辿り着いたときにどうするのか。そこを楽しみに見ています。
ラストは「ENEMY」でコラボ、ホールツアー『SUCK MY WORLD』でも共演が実現したラッパーKamuiとの対談。意外な繋がりがたぐり寄せた2人の出会いとは?
ー正直、他の方々に比べて、お二人の接点が一番わからなかったというか見えなかったんです。
KAMUI ああ、確かに。
TAKUYA 俺の後輩のAge FactoryっていうバンドのMVにKamuiが1回出てたことがあったんですね。そこでKamuiが着てた服がMUZEっていう俺がよく着てるブランドで。その時は全然接点なかったんですけど、気になってMUZEのデザイナーにも話してたんですよ。で、そこからちょっと時間経ってそのブランドのお店行った時にKamuiが働いてて。俺はもうなんとなく名前とかも知ってたから「Kamuiやん」ってなって(笑)
KAMUI 何か、不思議な感覚だったよね。
TAKUYA それ。俺も謎やったわ。すでに知ってる存在、みたいな感じでKamuiにしゃべりかけにいったら、すぐにどんどん仲良くなって。
ーKamuiさんはすでに知っていたんですか? 印象はありました?
KAMUI スタイリングの時もそうですし、拓也は普通にお店によく遊びに来てたんで知ってたんですよ。最初から何かオーラがすごかった。わぁ、すげーみたいな。でもそうやって繋がって、音楽の話したら意気投合して。「何かやろうか」みたいな感じで、結構色んなことがノリで始まったという。
ー勝手な印象ですが、お二人はジャンルなどの垣根なく積極的に色んな人と関わろうとするタイプでありつつも、嗅覚は鋭そうというか。関わる人をきちんと判断してそうな気がします。
KAMUI 拓也が人をどう見てるのかは気になりますね。アーティストという、音楽やってる人に対してどういう風に見てるか。
TAKUYA 結局、音楽ももちろんなんですけど、基本的に人で見てるよね。しゃべってて「こいつ深いな」とか「かっこいいな」とか、自分がその人といてレベルアップできるかできないかみたいなのが結構判断基準にあって。「あ、こいつ薄っぺらいな」なんてちょっとでも思っちゃうと、自分から距離を置いちゃうし、あまり深くまで自分も出さないようにしちゃう。だからそういう人とは、そもそも音楽の話とかもしない。
KAMUI えーっ。
TAKUYA なんか自分の音楽の話しても無駄だって思っちゃうんだよね。
KAMUI うちら音楽の話しかしないよな(笑) だからそんな感じだったって知って意外だわ。なんか俺の場合は、誰とでもマジで10年来のダチぐらいの感じでしゃべっちゃう癖があって、それで「距離ちけーな」って嫌われたりもするんだけど。ただ拓也の場合は、なんかすごいすーっと色んな音楽の話して、音楽に対して思ったこととかアプローチがどうとかって話もなんか自然にできて。でもやっぱ俺からしたら、メジャーのアーティストでここまで話ができるっていうのが新鮮でもあって。しかもわりとヒップホップの話もしたんですよ。「そこ精通してんだ」とか、そういう部分での意外性もありましたね。すげーって思いましたし。
ー価値観というか、特に音楽に対する美学もお二人は近かったんですかね?
TAKUYA それは一緒に曲を作ってるタイミングですごい感じましたね。どういう曲を作ろうかってなった時に、“メジャーメジャー”してるのは嫌だったんですよ。Kamuiとやる意味、みたいなのをむっちゃ考えて……。「こういうテイストでこういう感じで作ってみたんだけど、Kamuiどう?」ってざっくりしたデモを送った時に、共通ワードとしてインディーロックだったりのインディー感があるサウンドと、どういう風にメジャーの要素を軽くスパイスとして混ぜ合わせるか、みたいな結構緻密なニュアンスの部分が細かく話さずとも伝わったんですよね。たぶんそれまでに音楽の話をずっとしてたからだと思うんですけど。
ーベースの感覚は、もうすでにすり合わせられていた。
TAKUYA そうそう。逆にKamuiから「最近こういうのが流行ってるけど、これやっちゃうとちょっとダサいよね?」みたいなポイントを言われた時も、まさに同じ感覚だったし。そういう意味で言うと、かっこいい/ダサいの感覚値が知らないうちに共有されてて、お互い同じアーティストを“かっこいい”と思い合える、そういう感性というか感覚は一緒なんだろうなと思った。
KAMUI 確かに。なんか、俺としてもあんまりヒップホップに寄せてもらいたくなくて……そういうのって結構やりがちというか。ラッパーとやるんだったらヒップホップに寄せて曲作んないといけない、みたいな固定観念を止めてくれたんですよ。確かLINEでやりとりしてる時に「「起死回生STORY」のあのビートでも俺できるから」って伝えたんですよ。それっていわゆる8ビート的なブーンバップ的な感じを止めてほしかったんすけど、そこまで言わずとも理解してくれたから、それが結構嬉しかったのは覚えてる。
ーそこが伝わってないトラックが送られて来たら、意外と気まずいですよね(笑)
KAMUI 断りづれーじゃん(笑) そういうセンスのすれ違いがなかったのが、めちゃくちゃ最高だった。最初のトラックが来た段階で「やべー、これ、もうやるわ。いえー!」みたいな感じだったのがもう最高!
ー今回の「ENEMY」の制作が始まってから完成までは早かったですか?
KAMUI とは言え、1カ月間ぐらいはさすがに練りましたね。なんかやっぱり、自分にとっても特別な曲にしたかったから。自分を広げるチャンスだし、ぶちかますチャンスというか。ただほとんど何の制約もないし自由だった分、より時間をかけて練っていったって感じです。けど、練りに練って返したアンサーには「むっちゃええやん」って褒めてくれて、どんどん進んでいきましたね。
ーお互いのキャラクターも価値観も共有できたことで、結果的に楽曲制作もスムーズにいったということでしょうか。
KAMUI なんだろうな、でもそんな深い話でもないような気がしてて。マジで、ただずっとしゃべってたんですよ。
TAKUYA しゃべってた、ずっとしゃべってた。
KAMUI 初対面の時からずっと。俺自身もオーラルみたいな規模の人数のお客さんに音楽を届かせたことがないから。そういう立場の人が、どう音楽と向き合っているのかも気になってたし。俺からしたら拓也がやってることは、もうほとんどてっぺんでゴールなんだけど、そこまでいってるのにまだ全然満足していない姿を見て、「うわっ、あちいな」って素直に感動しましたね。たぶん、俺自身も拓也のようなポジションまで行ったとしても満足しないと思うし、同じことを繰り返すタイプじゃないから。そういうバイブスが合ったってだけの話なんじゃないかな。だからきっかけは、もうただただ2人、仲良くなったっていうところですね。
ーKamuiさんの音楽活動はサイバーパンクな世界観だったりボカロを積極的に取り入れたりなど、斬新で画期的なアプローチも数多く見受けられます。それは拓也さんにとって得るものがありましたか?
TAKUYA いや、めっちゃありますよ!
KAMUI ほんと?
TAKUYA 俺らってある一定の層には「めっちゃ舐められてるんだろうな」みたいな気持ちも背負いながら活動してるんで。そことはずっと戦ってきたんですよ。ただ、俺はどちらかと言うと“売れたくない”って言ってるやつはダサイなって思ってるので。売れる難しさから逃げてるだけじゃん、みたいな。それが一番難しいってことを知らないからそういうことが言えると思うし。だから、そんな意思で戦ってる俺らに対して純粋にリスペクトを持ってくれる人とは、根本的に話が通じると思いますよね。
KAMUI なるほどね、確かに。
TAKUYA だから、そこは自分の中でも前提として一線を引く部分としてあって。それこそKamuiの周りにはそういうやつもいっぱいいると思うんですよ。俺は俺のスタイルで別に売れなくてもいい、これがかっこいいから、ベストだからって言う人もいると思う。そういう人たちがたぶん俺らの周りより多いと思うんです。でも、その中で揉まれながら「どうやったら頭一個抜けられるか」って考えてるやつって、俺はめちゃめちゃ強いと思ってて。Kamuiとしゃべってるとそこら辺の感覚持ってるなと思うし、自分自身も舐められてることに対するムカつき具合が薄れてた時期だったから、その気持ちが復活しましたね。だからこそKamuiと作る曲はダサくないもの、というか「絶対かっこいいものにしよう!」っていう意気込みもかなり強かった。
KAMUI いや、でも俺からするとすごいキャスティングなんすよ。ライブにゲストで呼んでくれた時も実感したんですけど、手越(祐也)くんの後に俺っすよ?(笑) どういうことだ。何それって(笑) 目ん玉飛び出そうになった。俺でいいんすかって。やっぱあり得ないことだし。いくら話して仲良くなったって、とんとんと現実的に進められる世界でもないし。俺はインディペンデントですけど、オーラルとか拓也はメジャーなわけで。そんな彼らがこうしてちゃんと一緒に曲を作って、ミュージックビデオをリリースしてって、メジャーなアーティストとしても異質だと思うし。俺からしたら結構身構えた部分もあったんですよ。結構あれなんかな、なんか怒られたりすんのかなって。
ー制約とかも多そうですしね。
KAMUI 歌詞の表現とかも厳しく言われそうじゃないですか? けどそんなん何もなく、本当に自由にやらせてもらって。むしろ「おかげさまで」みたいなこと言われちゃうと「深いな」って思っちゃいますよね。こういう人たちがメジャーな音楽シーンやってんだなって思うと、それに感動しちゃって。拓也が今までやってきたこともすごいと思うし。いやだって、俺だって売れたいっすもん、マジで。だけど、その難しさは今まで音楽やっててずーっとあるんで。だから拓也の姿とか見てると、ちゃんと好きなことをやりながら売れているのはすごいって思いますね。音楽やってるやつは音楽やってるやつの目線でちゃんと見てますよ。ファンとアーティストの目線は違うんで。そういう時に「あ、こいつシャバいな」って思うこともあるんで。そういうのが拓也との間には本当になかった。
ーでは、結果としてこのコラボレーションは刺激になりましたか?
KAMUI いやもう、そりゃそうですよ。東京と大阪(※オーラル初の全国ホールツアー、Hall Tour 2022『SUCK MY WORLD』)も参加させてもらいましたけど、自分の経験してないあの場でライブできたのとかもすごいモチベになりましたし。ヒップホップって日本では市場小さいんで、あのステージから見た光景はすげー可能性感じましたし、しれっと平日にやってるし改めてすげーって思いましたね。マジで持ち帰って振り返って、俺の目標って全然ちっぽけだったなって。だからもう、すごい自分の夢とか広がった。ここにもう一回立つには、どう頑張ればいいか、とかすごい考えましたもん。そりゃもうすごい刺激もらってますよ。
ー拓也さんはいかがでしたか?
TAKUYA むちゃくちゃ刺激になりましたね。自分が素でいられる瞬間をKamuiとのステージでは作れるというか。本編をやってる時って、どうしてもTHE ORAL CIGARETTESとしての自分を客観的に見ながらやってるので、どこか冷静な部分も残るんですよ。MCやってる時とかは素だったりするんですけど、歌ってる最中はなかなかそうはいかなくて。その点、Kamuiとのセッションは言い方がすごく難しいんですけど、お酒を飲んで友達とワイワイやってるノリに近いというか。自分がキッズだった時の感覚に似てて。例えば自分がクラブに行って客としてステージを見て楽しんでる時の感覚? 今回の「ENEMY」はそういう意味で自分がやりたかったことにかなり近かったし、また別の面での発見もあったので。すごくそれは刺激的でしたね。
KAMUI いや、もう光栄ですね。何か別の対談で話した時も、拓也はTHE ORAL CIGARETTESとしてやってる時の脳と、本当に自分がやりたいことの脳は分けて考えてるって言ってたし、いかにオーラルっていうものをブランドとして大きくしていくか、みたいな責任感もめっちゃ背負ってやってて。それと比較すると俺はソロでやってるだけだから。でもそういう意味で、もしかしたら拓也がバンドとして背負っているもののプレッシャーとかにメンタル的に食らってる時に、俺が「Yeahー!」とか言ってぐちゃぐちゃーって解消してあげられる部分があるとしたら、俺的には参加できて良かったなって今思いましたね。
ー今後もこういったジャンルを横断したコラボレーションは積極的にやっていこうと思っていますか? Kamuiさんも、そういうイベントの主催などもされてますが。
KAMUI まぁでもなんですかね、俺を形成しているものって、それこそJポップとかも含めて色んな音楽とかカルチャーから幅広く影響を受けてるし、だからそもそも俺にとってそこに何の壁もフィルターもなくて。だからイベントやるにしてもコラボ曲やるにしても、自分が好きな人をシンプルに呼びたいんです。でも、誰とでも好きにやるわけではもちろんなくて。そこは最終的にリスペクトだと思ってるんで。そういった意味では今後も積極的に別ジャンルとやっていきたいっていうよりは、これをきっかけに何が起こせるか、みたいなことを考えてますね。今はまだ誰にも言ってないけど。
TAKUYA 俺もやっぱり人でしかないですね。今回のコラボレーションを通して、よりその気持ちは強くなってます。より、個を見るような気持ちはありますね。自分のこれからの人生としても、バンド人生としても、より楽しくてワクワクしていくものに持っていきたいから。その場所に誰と一緒にいるのか、みたいなところでKamuiとも別にこれっきりとは思ってないし。むしろ、これから先はもっと一緒に面白いことをやりたいですね。「ENEMY」ではコラボCBDの発売とかも控えてますし、音楽だけにこだわらず色々していきたいですね。一緒にステージで笑っていたいみたいな気持ちもめっちゃあるし。他のフィーチャリングアーティストたちもそうですけど、そういうメンバーへの仲間意識みたいなのは、より狭く濃くしていきたいと思ってます。
PHOTOGRAPHY : YUICHI AKAGI
STYLING : SIVA (THE ORAL CIGARETTES, KAMUI)
HAIR & MAKEUP : HIDEAKI MAYUMI (THE ORAL CIGARETTES, MAH, KAMUI)
INTERVIEW : SADANORI UTSUNOMIYA
*このインタビューは2022年5月23日に発売されたVI/NYL #007のために実施されました。
■VI/NYL