#008-Wu-Lu

#008-Wu-Lu

Instagram: @wulumusic

サウスロンドンを拠点に活動するボーカリスト/マルチ・インストゥルメンタリスト/プロデューサー。『The Fader』『Mojo Magazine』『Crack Magazine』『The Quietus』など世界各国のメディアからすでに賞賛を集め、世界中のフェスティバルに出演。black midiをはじめ地元UKのバンドとも交流を深めながら、独自のオルナタティブ・スタイルを貫く気鋭。

 


 

ヘビーなサウンドの奥に潜むのは、コミュニティへ訴える連帯力。衝動的な音楽活動とともに、Wu-Luはロウ・マテリアル(※教育支援機関)やフリースクールへの貢献も続けてきた。サウスロンドンのカルチャーそのものを象徴する彼に、先ごろリリースしたデビューアルバム『LOGGERHEAD』への想いから現状までを伺った。

 

 

ー幼少期はどんな子供でしたか?

感情的な子供だったことは確か(笑) すぐ腹を立ててた(笑) スケボーとグランジのカルチャーにハマってたね。よく黒のフーディーを着てたな。あと、俺はシークレット・リスナーだったんだ。自分のクルーの中では流行ってなかった曲を結構聴いてたから。グライムとかヒップホップとか好きで聴いてたんだけど、それは仲間には言わなかった。スケートやグランジのグループでは、ヒップホップとかグライムは嫌われてたからね(笑) 聴くならロックじゃなきゃダメだった。でも俺は、こっそりとロック以外の音楽を聴いてたんだ(笑)

 

ー幼い頃から変わらない性格は?

この間妹と話してたんだけど、妹が、大人になるってどんな感じ? と聞いてきてさ。で、俺は、自分はまだ14歳みたいな感覚だって答えた(笑) だって、いまだに好きな音楽も同じだし、前と同じアニメを見てるからね。時間を収益化できるようになっただけで、やってることは昔と変わらない。自分がやりたいことをやっているのは同じで、大人になったことで、お金を稼ぎながらそれができるようになっただけなんだ。親に頼らなくなっただけ。だから、ほとんど変わってないと思う(笑) 前よりも、感情をコントロールすることができるようになって、コミュニケーションを取るのが上手くなったとは思うけどね。

 

ー幼い頃の自分にアドバイスするなら?

おまえの根本やクリエイティビティを操ろうとする奴が言うことには耳を貸すな、かな。あとは、他人の感情に振り回されるな。俺、昔は結構そうだったから。特に年上の人たちに左右されてたと思う。でも今は、ちゃんと自分がどう思うか、自分の感情を表現して人に伝えることの重要さを理解できるようになった。人の言うことばかりを受け入れて、それに従ってちゃダメなんだ。自分が本当にそれをやりたいのか、ちゃんと自分の気持ちに従わないと。ノーと言える人間にならないとね(笑)

 

ー今の若い世代に伝えたいことは?

どんなに馬鹿げていると言われても、自分が信じるアイデアは形にするべきってことだな。周りにどう思われるかが怖くて、自分が面白いと思ったことでも、それを貫かなかったりすることってあると思う。でも、自分がいいと思ったことはやったほうがいいんだ。

ーあなたが住んでいるサウスロンドンはどんな街ですか?

サウスロンドンは、地元の人たちからのサポートが手厚い。あと、クリエイティビティに溢れていて、それがものすごいスピードで動いている街だと思う。そして、様々なクリエイティビティを活かせるコミュニティがたくさん存在しているんだ。まあこれは、サウスロンドンだけじゃなくて、ロンドン全体がそうなのかもしれないけど。でも特にサウスロンドンは、周りからのサポートが大きいんじゃないかな。

 

現在のサウスロンドンの音楽シーンはどんな状況ですか?

今もすごく活気があるし、盛り上がってるよ。あとは、若い世代が増えたと思う。いまだに音楽にとって重要な場所だと思うし、ミュージシャン同士がお互いをサポートしているし、クールな音楽を作っている人たちがたくさんいる。一時期サウスロンドンのジャズシーンが超ビッグになった時期もあったけど、あれはジャズというより、フリースタイルと即興というジャズの要素を活かして何か面白い、新しいものを作るというシーンの盛り上がりだったと思うんだ。そして今、若い世代のミュージシャンたちが、それにインスパイアされて音楽を作っていると思う。影響を与えてくれるものが周りにたくさんあって、それをもとに新しい、自分らしい音楽を作って、それに影響を受けた次の世代のミュージシャンたちがさらに新しい音楽を作っていくっていうサイクルは、サウスロンドンの音楽シーンのクールな部分だと思うね。

 

ー今特に気になっている社会問題はありますか? その理由も。

一番最近だと、イギリスには直接関係はないけど、アメリカの中絶の違法化。あれは本当にクレイジーだと思う。昨日、いとこと話してたんだけど、彼女が、今これがアメリカで起こっているんだから、5年後にはイギリスも同じ問題に直面することになるのかもしれないって言ったんだ。ありうる話だと思ったけど、そんなことが許されるなんてあってはいけないことだと思う。俺は自分の音楽で政治に触れたりはしないけど、意見は持っているし、それをシェアする場や機会があれば、シェアしていきたいとは思ってる。2022年にもなってこんなことが起こっているなんて本当にありえない。どこでだって、プロチョイス(※中絶の合法化を支持すること)でなきゃ。産むか産まないかの決断は、その人自身に委ねられるのが当たり前。人に指示されて決めることじゃないよな。

 

ーここ最近、プライベートで一番ハッピーなニュースは?

一番ハッピーなニュースは、友達が父親になるっていうのを聞いたこと。男の子ってこともわかってるらしい。それを聞いて、すっごく驚いたしめちゃくちゃ嬉しくなった。あと、妹が試験に受かって高校を卒業したんだ。これからは、動物学者の道に進むらしい。ハッピーなニュースはその2つ。

 

ーアーティスト名はアムハラ語の水=wu-haからもじったと伺いました。どういった想いを込めていますか?

流動的なものを表現したかったんだけど、俺にとっては常に流動的なもの=水というイメージが強かった。どんな形にもなれる、そんな自分を表現したのがこのアーティスト名。柔軟性があって、常に変化し、自分がなりたいものになる、という想いがこもってるんだ。

 

ーデビューアルバム『LOGGERHEAD』が完成した感想を聞かせてください。

すごくハッピーだし、肩の荷が下りたような感じがすると同時に、なんだか緊張もしてる。でもアルバムを完成させたことで自信もついたし、色々な感情が入り混じってる感じだね。その中でも一番大きいのは、ハッピーな気持ちと興奮だな。 “さあいくぞ!”って感じ(笑) 勢いがついちゃって、もう次の作品にも取り掛かってるんだ(笑)

 

今作はどういった期間に制作された楽曲たちでしょうか?

曲のほとんどはロックダウン中に書かれた作品。ロックダウン中に閉まっていたロンドンのパブと、ノルウェーで合宿をして作ったんだ。ノルウェーからロンドンに戻ってきてからも少し作業したしね。ロックダウン中だったから、かなり集中できた。あれはすごく良かったと思う。

 

ーポストパンクからスクリーモ、ヒップホップまでサウンドが多彩に変化しますが、制作プロセス上は伝えたいメッセージからサウンドが生まれることが多いですか?

自分がその時に抱えている感情を表現してサウンドを作り出すことが多い。あと、自分がそのサウンドを聴いて心地いいと思えるかどうかは意識するかな。伝えたいことをちゃんと伝えられるようなサウンドかどうか、自分がその日に持っているバイブスに合うかどうかも考えるしね。サウンドが変化するのは、その時その時で自分の感情やバイブスが異なるからだと思う。その時に聴いている音楽に影響されたりもするし。あと、たまに俺は曲を途中まで書いて、しばらく寝かせてから仕上げるときがあるんだけど、作り始めたときと曲を仕上げるときまでの期間の変化が映し出されることもあるんだと思う。そのときに仕上げる必要性がなかったり、何かがしっくりこないときは、無理矢理曲を仕上げようとはしないんだ。それによって、思いがけない発展を遂げることもある。例えば日本盤のボーナストラックの「Enemies」なんかは、最初もっと速くて、インディーっぽい感じだった。アップビートで、四つ打ちでさ。でもそれが、作業を再開した日に俺の頭がちょっとゆったりモードだったから、結果的に超スローモーションなグランジ・チューンになったんだ(笑) その日はなんかテープマシンをスローダウンさせてみたくなって(笑) やってみたらそれが超良くてさ。友達に聴かせたら、彼もめちゃくちゃ気に入ってくれたから、そっちのバージョンでいくことにしたんだ。

 

ー多様な音楽性を表現している一方で、メッセージの芯の部分は一貫性を感じます。アーティストは人々にとってどういう存在でいるべきだと思いますか?

人々は、アーティストを人として受け入れるべきだと思う。アーティストも人間で、自分自身であるべきだと思うから。そのアーティストの全てを好きになる必要はないんだ。人間だから、変化もするし、自分の好みと違うものを好むことだってある。つまりアーティストは、人々にとっていち人間であるべきだと思うね。そして、人々はアーティストが人間であることを許すべきだと思う。色々な方向に進み、色々な経験を積むことで、アーティストも進化し、成長することができるわけだしね。

 

ー音楽の存在意義はズバリ何だと思いますか?

音楽は心臓の鼓動と同じだと思う。それくらい重要だということ。音楽って、聴くとその人のDNAの一部になるものだと思うんだ。それが悲しみの一部だとしても、喜びの一部だとしてもね。だからこそ、人々がコミュニケーションを取るための手段にもなる。その人の根源を表現して伝える術になるのが音楽なんじゃないかな。

 

ー独りきりで海に浮かぶアカウミガメ(LOGGERHEAD TURTLE ※今作のテーマ)は、この後どこに向かうと思いますか?

アカウミガメがいる場所を考えると、それは海。つまり、アカウミガメはどの角度にもどの方向にも進めるんだ。そして、海はものすごく深くて、たくさんの層があって、俺たち人間が知らない世界が広がっている。だからそこを、深く深く進んでいくんじゃないかな。どこに行くのか俺にはわからないけど、未知の世界を探検し続け、経験を積んでいくんだと思う。俺は、いまだに自分の声、クリエイティビティを見つけるために探検を続けているから。それを見つけ出すためには、たくさんの層を通過しながら、自分がまだ見たことのない場所を探索しないとね。泳ぎ続けたら、仲間にも出会うかもしれないし。

 

 

INTERVIEW : SADANORI UTSUNOMIYA

TRANSLATION : MIHO HARAGUCHI

 

*このインタビューは2022年8月10日に発売されたVI/NYL #008のために実施されました。

*写真は全てアーティストからの提供です。